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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#7

尊皇攘夷への道(1)

「時代は僕らをのんびり過ごさせてはくれなかったんだ。」

 俊輔は説明を続けた。

「公儀が外国と結んだ条約を巡って港を開くか、あくまでも鎖国を続けるか、交易はしないが寄港を許すかという問題があった。鎖国・開国・夷狄である外国人を討つべき・外国と戦えるまでは相手を利用すべき・公儀のもとで政治を行う・帝こそ政治の中心等意見の交錯もあってたくさんの主義主張が乱れ飛んでいた。主義主張が政治闘争となると血なまぐさい事件にもつながっていく。長州も安政の大獄で亡くなった吉田松陰先生の教えを受けた松下村塾塾生と理解者である改革派を中心とする組、公儀に従うことが重要と考える保守的な組ができつつあった。僕は塾生だったから」

 ふっと俊輔は聞多の方を見て笑いながら言った。

「聞多はお役目の傍ら、西洋学や西洋砲術を学んでいた。ただ剣術はあまりうまくならなかったらしく、道場に通うのはやめたらしい」
「余計なお世話じゃ。時間の使い方の問題じゃ。だがのう、言われるほど腕は悪くない、はずじゃ。そもそも藩校でも鍛錬はできる。殿のお側で恥ずかしく無く警護ができりゃええんじゃ」
 聞多が不満そうに口をとがらせながら言い返した。

 俊輔は笑い顔を急に引っ込めて、静かに言った。
「朝廷から下された密勅と「航海遠略策」という政策が導火線に火をつけたんだ」

「桂さん、急にお呼びって、何があったのですか」
 俊輔が桂の部屋に呼ばれていた。
「私も周布様から説明を受けたばかりで、どうするか決めきれていないが。朝廷から公儀のやり方に不満のある旨の密勅を頂いた。我らも何か動かねばならぬということだ。君にも今まで以上に働いてもらうことになる」
「はい、わかりました。大丈夫です」
「それと、高杉が江戸に来る。世子様の御小姓だ。君も知っておるだろう」
「はい、もちろん」
「これは読んだことがあるか」

 桂がそれほど厚くない冊子を差し出してきた。

「航海遠略策だ。多分高杉も読んでいるはずだ。君も読んでおけ」
 俊輔が受け取って、ぱらぱらめくっていると、桂が話しかけた。
「高杉の動きにも気を配ってほしいんだ。予想がつかないからな」
「はいわかりました」
 俊輔はそう言って下がろうとした。あっという顔をしていた桂を見ていた。すると桂は「これも持っていけ」と小さな箱を渡してきた。

 部屋を出てちょっと中をみると金平糖が入っていた。品川弥二郎にでもあげれば喜ぶなあなど考えていた。

 


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