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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
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#江華島事件

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

12 神の行く末(1)

 公儀の直轄領だった長崎は、鳥羽伏見での敗戦を受けて奉行が退去していた。そのため、無政府状態だったところ薩摩、長州、肥前、土佐といった長崎にいた藩士たちがとりあえずの行政機能を担っていた。その状況の改善が朝廷に働きかけられ、九州鎮撫総督の沢宣嘉の参謀として聞多は長崎に赴任することになった。
 総督府や裁判所(県庁)を開庁し、行政機能を図ることになった。五箇条の御誓文といっ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#118

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#118

22 江華島事件(1)

 「まさか、あの御仁が陸奥くんまで巻き込んで、このような企てをしようとは」
木戸が怒っていた。
「ですが、われらも、板垣側の条件の卿・参議の分離の道筋が描けておらんでは」
馨はなだめようとしていた。
「だからと言って、元老院の機能を、賛成なくば法の成立は認められぬと勝手な拡張をするなど。性急なことをしても、誰もついてはこれんだろう。皆の理解を得られずして、孤立して何ができ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#119

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#119

22 江華島事件(2)

 大久保利通が珍しく、落ち着きをなくしていた。その場には伊藤博文もよばれていた。
「全く、台湾が片付いたと思ったら、今度は朝鮮だ。あっちもこっちも勝手なことを」
「しかし、考えてみると、朝鮮に対して交渉をする良い機会かもしれません」
「だが、朝鮮となると血の気が多くなるものばかりではないか。戦だけは避けねばならん。台湾以上に清の動きも気になる」
「確かに、それにまた頭の痛

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#120

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#120

22 江華島事件(3)

博文と山縣は、銀座の馨の会社の前で待ち構えていた。
「聞多、用事は終わりか。狂介も暇だというから一緒に待ち構えとった」
「狂介も暇じゃと、そりゃ珍妙じゃな。江華島の始末まだついとらんだろう。いつからそんな閑職になったんか」
馨は、おもわず、言葉尻に絡んできた。
「僕だって、息抜きが必要じゃろ」
「確かにそうじゃな。すまん狂介」
「そうじゃ。三人で騒ぐんじゃ」
博文が妙な気

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#121

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#121

22 江華島事件(4)

 逃げることも、隠れることもできないうちに、また俊輔と狂介がやってきた。
「聞多、今日こそ結論を出そう」
 博文が口火をきった。
「結論?朝鮮への使節の件か」
「そうだ。改めて大久保さんから君を説得してほしいとお願いされてきた」
「聞多さん、大久保さんは君の力が必要だと言っているんです」
 山縣も馨に声をかけた。
「狂介も俊輔もご苦労なことじゃ。だいたいわしには裁判という

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#122

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#122

22 江華島事件(5)

 翌日、博文は出仕すると工部省にやってきた山縣と合流し、内務省の大久保のもとに行った。
「大久保さん、山縣と二人で井上さんに会ってきました。朝鮮使節の件、承諾をしてくれました。それで、井上さんの任官はどうなりますか」
「あぁ、元老院議官でどうですか」
「わかりました。大丈夫です。ただ、条件が」
「条件ですか?」
「はい。自分と木戸さんに、三年間の欧米での留学を認めてほしい

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#123

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#123

22 江華島事件(6)

 また博文が訪ねてきた。きっと朝鮮派遣の件だと思って話を聞いた。
「聞多、すまん。大久保さんに改めて君の朝鮮使節の件を話してきた。元老院議官に任官、副使で内定になった。裁判の件も近々終結するはずだ」
「わかった。会社の今後についても益田には話しておいた。それで、一番の難敵についてはどうしたらええのかの」
「一番の難敵とは。木戸さんのことか」
「そうじゃ。木戸さんの渡韓をわ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#124

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#124

22 江華島事件(7)

 横浜で、馨は乗船する前に家族と団らんの時を持つことができた。
「お末、ママの言うことをよく聞いて、身の回りのことは自分で揃えておきなさいね」
「パパ、だいじょうぶ。できます」
「いや、パパは。パパではなく、父上と言いなさい。わかりましたか」
「はい、父上」
「よし」
 そう言うと馨は末子の頭をなでた。困ったような嬉しいような末子の笑顔が愛おしかった。
「武さん。後のこと

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