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棋士の愛したアナログゲーム――連載「棋士、AI、その他の話」第12回

 麻雀最強戦。
 麻雀漫画誌「近代麻雀」等を発行する竹書房主催のタイトル戦だ。その特徴は、プロ・アマ・著名人といった幅広い人々に門が開かれていることと、一局勝負のトーナメント戦であること。優勝者は称号「最強位」を名乗ることが許される。麻雀を嗜む者全ての憧れとも言える大会だ。
 その最強位を勝ち取った棋士がいる。
 鈴木大介。
 九段。日本将棋連盟常務理事。一般棋戦優勝2回。タイトル戦進出2回。かつて振り飛車御三家と呼ばれたトップ棋士の一人だ。近年はその早見え早指しを駆使して有力な若手に豪快な勝ちを収めることが多い。
 鈴木の強さは筋の良さにある。奇抜な手、不可思議な手は好まず、将棋の王道を行くような手を堂々と指して仁王立ちするのが鈴木のスタイルだ。しかもそれを、消費時間を使わずにやってのける。良い手が瞬時に見えるのだろう。
 そんな男が初めて手にした“タイトル”、それが最強位だった。

 将棋棋士には麻雀を愛好する者が多数いる。古くは大山康晴十五世名人が特に好んで遊んでいた。彼は二日制のタイトル戦で初日が終わると、食事もそこそこに「麻雀しよう」と周囲に声をかけ(半分命令のようなものである)、夜遅くまで卓を囲んでいたという。これは単に麻雀好きというだけでなく、場を自分のペースに支配する番外戦術も兼ねていたとも言われる。
 先に挙げた鈴木九段は麻雀好きのレベルが一つ違っていて、十代の頃には麻雀団体「雀鬼会」に所属して将棋以上に没頭していたというほどの筋金入りだ。彼はインタビューで「雀鬼会で過ごした日々が将棋にも大きな影響を与えている」と述べている。
 鈴木は雀鬼会での日々の中、ある人物と知り合う。サイバーエージェント社長・藤田晋だ。藤田はトッププロとも引けを取らないほどの雀力を有し、鈴木と同じく最強位を手にしたこともある。藤田が代表を務めるインターネットテレビABEMAに開設当初から麻雀チャンネルがあったのは、藤田の意向が大きい。その後藤田は麻雀プロリーグ「Mリーグ」を発足させることになる。そのABEMAに将棋チャンネルが開設されたのは、鈴木が藤田に提案したことがきっかけだった。つまり現在の将棋中継の盛り上がりは鈴木の麻雀好きのおかげであると言えないこともない。

 麻雀に限らず、棋士はアナログゲームを好むことが多い。

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