夫と同じ名字になること
わたしは2019年の春に結婚して、同年の夏に出産を経験した。いわゆるおめでた婚というやつである。
正確に説明すると「プロポーズを受け、結婚のご挨拶などを改めて済ませてから婚姻届を提出しよう」とゆっくり構えていたら、妊娠が発覚したから急いで結婚した。が正しい。
だから、まあイメージするおめでた婚とはもしかしたら違うのかもしれないけれど、もうそんなのどうでもいいから「妊娠したから結婚した」と説明するようにしている(夫は少し不服そうである)。
結婚を機に名字が「清宮」になった。
もともとわたしは「田中」という非常にありふれた名字で、特にお気に入りではなかったから、名字が変わることへの抵抗はない。
学生時代からのあだ名が、なぜか「たなちゃん」「たなかちゃん」「たなみ」と名字を含んでいるものが多かったので「ああ、これからは田中じゃないけど、そう呼ばれるのだな」とは思った。
それでも、わたしは変わらずわたしだし、それもそこまで気にした記憶はない。
ただ学生時代にLGBTQに関する活動に参加していて、結婚については色々な角度から考えたことがあったから、自分がこんなにすんなり名字を変えることを受け入れたのは意外ではあった。
名字に愛着があったわけではないけれど、まあちょっとぐらい違和感があって然るべきではと思ったのだ。あんなに結婚についていろんな感情を抱いていたのに、いざ自分が結婚するとなるとこんなにもあっさりいけちゃうものなのか。
なんでなんだろうな、と思いつつもまあそんなもんかと深く考えないことにした。というか、問いを立てておくと頭は無意識下で勝手に答えを探すことをわたしは知っているので、無意識にお任せしたといってもいい。
そんなこんなで、おそらく数年越しに「もしやそういうことなのかもしれない!」という解を発見した気がする。
わたしは確かに結婚して名字が変わった。ただそれは、多くの人が体験するそれとは少し違っていたらしい。
夫とは大学時代からの友人で、出会ったとき夫は佐々木だった。それからずっと友人として付き合いがあったけれど、その間もずっと夫は佐々木だった。
佐々木という名字は夫の父方の苗字。夫の両親は夫が小学生ぐらいのときに離婚していて、夫は母親と暮らしてきたのだけれど、夫も夫の母親も名字を母方の旧姓に戻さなかったらしい。
ずっと戻さなかったのに、確か占いに行ったか何かだったと思う。夫の母親が急に旧姓に戻そうかなと言い出して、「あなたは好きにしていいよ」と言ってきた。
夫としては別にどっちでもよかったけど、名前の変更はそれなりにめんどうなので、これを機に変えるかーということになった。
で、そのタイミングと重なるようにわたしが妊娠。結婚してから名字を変えるとさらにめんどうなことになるからと、婚姻届を提出する前に、急いで夫は名字を変えた。そしてそのあと結婚して、わたしが名字を変えた。
そう、わたしたちは結婚するとき、一緒に清宮になった。
長らく互いに佐々木と田中で生きてきて、結婚するときにほぼ同時に清宮になった。お互いにめんどうな手続きをして、一緒に清宮をはじめられたのは、わたしにとってはとてもよいことだったのかもしれない。
お互いに「清宮」は自分の名字ではなくて、一緒に生活していく中で、一緒に清宮になっていった。
だから、わたしは夫と名字が同じだけれど、「夫の名字になった」とはあまり思っていない。一緒に清宮をはじめた。そんな感覚でいる。
それはわたしにとっては当たり前のようにそこにあった日常で、わたしはこれ以外の名字の変わり方を経験したことがないから、あまり特別なことだとも思っていなかった。
でも、この経験はわたしの気持ちに大きく影響しているように思う。
そういえば、夫が結婚したことをFacebookで友人に知らせようとしたときに「結婚して清宮になりました!と書いたら、嫁さん側の名字にしたのかと思われそうだけど、嫁さんの名字は田中だから、説明がめんどい」と言っていたことを思い出した。
たしかに、夫側の視点に立つと、清宮になった経緯を説明するのは結構めんどい。でもまあそれもおもしろいし、よい経験だったということにしておこう。
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