見出し画像

【映画レビュー】『聲の形』:いじめをした人は更生できるのか

 いじめを題材にした映画である。いじめについて語るのは難しい。自分は当事者ではないと第三者になっているつもりでも、実はそうではないかもしれない。もし本当に第三者であるとしたら、いじめの当事者の気持ちなど理解できないかもしれない。でもこの映画は、そこに正面から立ち向かっているので、この映画について語ろうとすると、いじめのことを語らないわけにはいかないくなる…

いじめられる側といじめる側

 いじめられた人が、いじめた人を好きになることなんてありえない、と厳しいことを言われた。確かにそうだと思う。そんなこと普通はありえないと思う。いじめられた傷はそう簡単に消せるものではないはずだ。
 それに、いじめた側は、いじめたという意識を持っていないことが多い。悪いことをしたと反省することなどほとんどないのではないか。そもそも自覚していない。それこそが一番の問題であるように思う。
 罪の意識をもって謝罪されても許せなくて当然なのに、罪の意識すらもたない相手を許せるはずがないのでは……。
 この映画の主人公の石田は、小学生の頃に転校してきた西宮さんをいじめてしまった。西宮さんは耳が聞こえないので、友達の会話に入ることができない。それでも筆談ノートを持ち歩き、積極的にクラスメイトと関わろうとする。それが一部の人たちにうっとおしく思われ、次第にいじめの対象になっていく。西宮さんと仲良くなろうとした友達もいたのだが、いい子ぶっていると言われパージされていく。
 石田は、いじめられた西宮さんがそれでも自分と友達になろうとしてくることを素直に受け入れられず、逆に西宮さんを攻撃するようになっていく。そしていつしか西宮さんは学校を去ってしまう。
 そんな石田が高校生になり、西宮さんと再会し、過去の自分を後悔し、もう一度やり直したいと思うようになっていく。そして西宮さんも石田のことが好きになっていくというのが、この映画のストーリーである。
 そして、そんなことは実際にはありえないのではないかという疑問が湧いてくる。

絶対に更生できないのか

 石田は、小学校のときに西宮さんをいじめていたが、中学になると逆にいじめられる側になる。いじめていた側がいじめられる側に逆転してしまうことはよくある。もちろんその逆も。
 私には経験がないのだが、そんな体験をしたら、自分が犯してきた罪に気がついて、後悔したり反省したりすることもあるのではないかという気もする。そう考えれば、この映画の設定が不自然であるとは言えない。
 後悔して反省して、自分の命を絶とうと思うほどになるなら、許されてもよいような気もする。
 一方で、本当に更生できているのか、信じ切れない気もする。いじめをしたということは事実で消えないし、また何か同じようなシチュエーションになったら、同じことをしてしまう人なのではないかと思ってもしまう。
 それでも私は、更生できると信じたい。そうでなければ、人間は変わることができない存在になってしまう。もちろん、そのためには事実をしっかり認識することが不可欠である。それなしには絶対に更生はできない。
 しかし、現実のいじめというのは、1対1ではなく、集団対1であることが圧倒的に多い。だからダメなのだ。そうであると、いじめたという事実にいじめた側が気づかなくなってしまう。何もなかったかのように、平然とその後の人生を送ることになる。だから、現実には、いじめた側が更生することができないのだ。
 しかも、たちが悪いことに、自分が更生すべき人間という意識すら持つことはない。自分はいじめになど関わっていない第三者だと言いながら、いじめ問題について偉そうに語ったりする。
 今の私も、もしかするとそうなのかもしれない…

勇気をもって可能性を見せてくれた

 そのように、語ることすら簡単ではない、いじめの問題であるが、この映画は正面から向き合っている。「難しくて語れない」「そんなの無理だ」と後ろを向いているだけなら誰でもできるが、なんとかいじめを乗り越えていこうと前を向いていくことには、勇気が必要だ。
 もしかすると、この作品は、「楽観的すぎる」「現実を踏まえていない」という批判も受けるかもしれないが、人間の可能性を信じ、その可能性を眼前に見せてくれようとした、素晴らしい映画だと私は思う。理想を掲げ、希求しなければ、現実は変わらないのだ。
 こうしたことは、フィクションだからできることでもあると思う。もっと言えば、アニメだからこそ創造できたチャレンジなのかもしれない。


 このアニメは、京都アニメーションで制作されました。手話の場面が非常に丁寧に描かれていると話題になったそうです。問題作ではあると思うが、とても美しい映画でもあると思いますので、ぜひ実際に見ていただけましたら……

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?