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【映画レビュー】『街の上で』:人との距離感の難しさが風景に溶け込んでふわふわ揺れる

 下北沢の街、いいなあ、住んでみたいなあ、と思った。
 と同時に、人との人との距離感って難しいなとも思った。近づきすぎるとだめになるし、かといって遠すぎてもつまらないし……
 この映画では、人と人との距離感の謎が、街の風景に溶け込んでいるようだ。ゆったり流れるけど、その中にえぐりだされるような痛みもあった…


「こういう距離感のまま付き合っていくことってできへんのかな」

 主人公の青は、古着屋で働いている。お客も(おそらく)多くなく、いつも本を読んでいる。
 その姿に目をつけた、映画を学ぶ大学生に請われ、彼女の卒業制作作品に出演することになった。しかし、演技がガチガチで出演シーンはカットされてしまう……

 青は映画の打ち上げになぜか参加することになる。その場になじめずにいると、同じようになじめなかったスタッフの女学生イハと、なんとなく意気投合する。そして、イハの部屋に行って、いろんな身の上話をすることになる。
 この場面での、イハのセリフがものすごく心に残った。本当にそうだなと思った。彼女が言ったセリフをそのまま書き起こしてみる。
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 なんで男と女はさ、いや、同性でもいいんやけど、付き合ったり好きって思ったりせんかったら、こうやってなんでも喋れるやん。
 けどさ、いざ、異性として意識するとさ、嫉妬したりとかさ、いつもおもろく喋れてる話がつまらんくなったりするやん。
 なんか、こういう距離感のまま付き合っていくことってできへんのかなって、いつも思う。
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人と人との距離感って本当に難しい

 友だちだと気楽に話せる、恋人になるとそうできなくなる。友だちよりも恋人のほうが深くお互いを思い合い、求めあっているはずなのに。
 そして、何かをきっかけに別れてしまったら、たいていは一生断絶する。
 友だちだったら、浅いつながりながらも、一生そのまま付き合っていけたりする。
 会えなくなるくらいなら、恋人よりも友達でいるほうがいいじゃないか。ずっと関わり続けられるほうがいいじゃないか。
 そう思うけど、なぜか、そうはいかないものだ。人と人との距離感って本当に難しい。
 その難しさが、先ほどのイハの言葉で見事に語られている。

近くなるほど離れてしまう

 相手のことを思いすぎると、嫉妬とか憎しみというような感情が生まれてくる。嫉妬とか執着は、とても情けなくて、はたから見たら本当に見苦しいものだ。
 しかし、主人公の青は、イハに対して、そいういう嫉妬のような気持は必要だと言う。形がない人間関係の中で、つながっている証になるのではと、肯定的にとらえる。
 それはそれでわかるような気もする。そういうところへ進んでしまうのが人間であり、そこから逃れられないのかもしれない。好きになってしまい、近づきたくなってしまい、そして嫉妬に駆られてしまう。そんなことを繰り返す。
 そして、誰もが苦しむことになる。わかっているのに、どうしてうまくいかないのだろう。
 恋人、友達、知人、知り合い、同僚………人と人との距離感に、答えもマニュアルもない。どうすればいいのか、誰にもわからないのだ。

シンプルにつながれたら

 もう一つ、人との人との距離感を考えさえられるシーンがあった。
 青が演じた場面が映画でカットされてしまったことに対して、古本屋の店員の女性が猛烈に抗議する。
 そのシーンがとてもよかった。一番好きなシーンかもしれない。
 彼女は青の恋人でもなければ、友達ですらないかもしれない。いろいろあって、青が演技の練習をするのに付き合っただけだ。
 そんな彼女が、青のことで猛烈に怒る。
 友だちだとか恋人だとか、そんなことはどうでもいいと思える。他人に共感し、そして、自分の感じたままに表現すればいいのだと。
 一番シンプルで、正しい人と人とのつながりを見たような気がする。
 でも、現実にはそんな風にシンプルにはふるまえない。そして、人との距離感やつながり方に悩む。
 だからこそ、本当にいいシーンだなと思った。

とらえどころがなくふわふわと

 なんだか、うまくまとめられない。でも、しかたがないかもしれない。
 とらえどころのない人と人との距離感が、とらえどころなくふわふわとゆるく、街の風景に溶け込んで流れていく作品だから。
 とらえどころがないけれど、心に少しトゲを残す……そんな映画だと思います。


 最近大活躍の若葉達也さん。彼の魅力がもっとも発揮された、一番彼らしい(?)作品ではないかなと思いました。
 何とも頼りなくて情けなくて、かといって弱くもなし。ちょっと俗っぽいけど、なぜか純粋にも感じる。
 どこにでもいそうだけど、なかなか出会えない。特にスクリーンの中ではめったに出会えないタイプの俳優さんだなと思います。
 そしてこの作品は、彼を取り巻く魅力的な女性たちという視点でも見られる映画だと思います。

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