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【映画レビュー】『メタモルフォーゼの縁側』:マンガ以上に魅力あふれる作品

 ヒットマンガが原作となっている。
 私は、マンガを人から勧められて読んだのと並行して、映画を見た。
 マンガもとてもよかったが、映画はそれ以上によかったように思った。マンガの世界と魅力が、見事に2時間弱に凝縮されていると思った。

マンガの登場人物そのもの

 主人公はBLが好きな女子高生「佐山 うらら」。芦田愛菜さんが演じている。
 うららは、ほかの人とうまく交われない。自分に自信もない。人から後ろ指をさされたりもする。
 だから、孤独なんだけれど、彼女は媚びない。そして、人のことも決して悪く思わない。なんて、かっこいいんだろう。
 でも媚びないから、やっぱり孤独になってしまう。
 うららは、BLへの熱い思いを持っている。でも、それを他の人には言えない。というか言わない。
 そんな風に揺れ動く、内に秘めた心情が、すごくよく伝わってくる。
 マンガの主人公そのままだ。マンガから飛び出てきたようである。芦田愛菜さんの演技はすごい。

年の差を超えた親友

 もう一人の主人公は、うららがバイトをしている書店に、客としてやってきて、仲よくなるおばあさん「市野井雪」。設定では75歳である。宮本信子が演じている。
 雪は、うららにBLを勧められ、ファンになる。
 雪はうららのように陰を持つような性格ではないが、うららと同じように、人から何か言われて、動じるような人ではない。好きなものは好きと言え、堂々としている。
 そして、雪は、年の差を超えて、うららと親友のように仲よくなる。二人で、BL作品について語り合っているところは、とても素敵だ。お互いに大切にしあっている二人の関係が、本当に魅力的である。

一人で苦しみをぐっと抱えた人を応援したくなる

 こんな風に、マンガそのものだと言ってしまうと、だったらマンガを読めばいいじゃないかとなってしまう。いや違うんです。マンガを2時間の映画にしようとすてば、どこを取り出して、どう構成するかを考えなくてはならない。ときには、何かを捨てたり変えたりしなくてはいけない。
 それが、本当に見事だった。マンガ以上だと思えるくらいだった(いや、マンガもとても素晴らしいです)。
 いちばん、象徴的なのは、主人公二人が、コミケに出店して、自作マンガを売るというエピソードである。これは、マンガにもあるが、映画では、マンガのいくつかの場面のエッセンスを集めたような形に再構成している。
 このシーンが本当によかった。ここはマンガよりもよかった。
 うららは、コミケのブースに着くが、雪は足を痛めて会場に来られなかった。うららは、一人で自作のマンガを並べて売ろうとするのだが、周りを見回すと、自分の作品や宣伝物の貧相さに気後れしてしてしまう。自分はここにいていいのかと、恥ずかしくなってくる。そして、ブースを投げ出して、会場外の通路に座り込んでしまう。
 このときの、うららの苦しみが痛いほど伝わってくる。ああ、そうか……と、一緒に泣きたくなった。
 それを、家に帰って、雪に話しながら泣いてしまったところでは、私も泣いた。
 胸の内に苦しみを一人で抱え、ぐっとこらえている姿は、本当に痛々しい。でも、私はそういう人が大好きなのです。孤独だけれど、媚びずに生きている人は応援したくなる。


 この映画の中に入って、二人と一緒に話せたり、コミケに行ったりできたら、どんなにいいだろうと思ってしまいました。
 こんな風に、趣味のことを話せて、お互いのことを思い合って、つながれる友がいたらなと。
 ああ、いいなあと心から思える、温かい作品でした。

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