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【映画レビュー】『台風クラブ』:多感で気高くて潔癖でもろくて弱い青春時代

 嵐が近づくと、なんとなく気持ちが高ぶってくるというか、揺れ動いてきたりする。そういう状況と、青春時代の精神の不安定さが見事に結びついた傑作だ、という印象をずっと持っていた。
 今回、台風の季節を前に、見直してみてやっぱりすばらしい青春映画だと強く思った。

台風の接近を舞台に描かれる思春期の気持ち

 1985年公開なので、もう40年近く前の映画ということになる。私がこの映画を観てからも30年以上の月日が流れている。それでも、自分の中で、すばらしい青春映画としての、この映画の地位は揺るがない。
 台風がだんだん近づいてくるにつれて、思春期の中学生たちの不安定な気持ちがだんだんハイになり壊れていく様は、青春時代の多感さ、気高さ、まっすぐさ、弱さ、もろさといったものを見事に表していて、まさにこれこそ青春だと思う。
 嵐の中で踊り狂う場面、女子生徒がだらしない先生に詰め寄る場面、死と生について思い詰めてしまう場面などなど……。汚れのない潔癖さと、汚れた世間に飲み込まれようとしている両極の危うさが入り混じっている、何とも言えない微妙な感じが伝わってくる。うまく表せないけれども、とにかく共感してしまう。
 それは、時代が変わっても、表面的な形は変わっても、今の若者も同じではないかと思う。根底にあるものは、通じる部分があると思う。うーん、それでも、今の若者は、もう少し世慣れているかもしれないが……。

言い訳をしない素敵な大人

 今回久しぶりに見直してみて、三浦友和さんが演じる教師に、すごく共感できた。若い頃に見た際は、そうでもなかったと思うのだが、自分も年を取ってきたせいだろうか。
 教師は、私生活で、付き合っている女性といつまでも結婚せずに貢がせたり、中学生に対して授業や指導も適当にしたりという、ダメ教師のような扱いで描かれている。
 しかし実は、女性問題については真相は違っていた。でも彼は言い訳をすることはなかった。生徒からふしだらさを詰め寄られても、子供に対してそういう大人の事情の説明をすることはなかった。
 指導もおざなりなところがあるが、教師は仕事であり、全生活を捧げているわけではない。子供からすれば、いい加減に思えるかもしれないが、大人になってみれば無理もない。しかし、彼は子供に対してはそういう言い訳も説明もしない。
 子供に対して、言い訳をしない、甘えないというのが、ある意味潔くて、素敵な大人だなと思った。そういうことが改めてわかったのも、映画を見直してみてよかったと思ったことだ。

今でも通じる青春映画

 内容やあらすじににはほとんど触れていないが、それらは他の映画紹介に譲りたい。
 とにかく、台風とともに気持ちがだんだん盛り上がっていく様が、本当にうまく描かれているし、「その気持ちわかる!」と強く思う。私の中では、青春映画のバイブルともいえる作品である。


 今回この映画を見直してみようと思ったのには理由があるのですが、それとは関係なく、4Kレストア版が、2023年9月に公開されるそうです。本当に偶然です。
 でも、この映画に改めて脚光が当たるのはとてもうれしいです。ぜひ見たことがない方は、この機会に見てほしいなと思います。
 今の若い人がこの映画を観て、どう思うのか知りたいです。


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