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【映画レビュー】『ラストレター』:みずみずしさにあふれた痛みと救いの物語

 雨上がりに青空が広がって、水たまりがキラキラ反射しているような感じ。そんなみずみずしさの中で、痛みと救いの物語が静かに進んでいく。
(こんな拙い比喩より、ぜひ実際に映画を観て下さいませ)

心の中に小さな花を咲かせてくれる

 痛みを抱えた人が、幸せをつかむわけではない。苦しめているものから解放されるわけでもない。それでも、何か少し救われたような気がする。岩井俊二監督の作品は、いつもそんな感覚を抱かせてくれる。
 同じように手紙をモチーフにしていて、この作品と対になると言える傑作「ラブレター」は、同姓同名が原因で引き起こされる、偶然のいたずらのような、可愛らしいストーリーだった。
 それに対して、この「ラストレター」は、意図的ないたずらによって展開していくストーリーで、タイヤをひきずっていくような重みもあった。
 しかし、どちらも、引きずり続けていた過去のしがらみから抜け出していける光を見出せるような、救いの映画だった。
 最初に述べた「みずみずしさ」が、心の中に小さな花をそっと咲かせてくれたような感覚になる。

それぞれが抱える痛みや苦しみが、少し救われる

 「ラストレター」では、福山雅治が演じる乙坂という男が、高校時代に思いを寄せていた美咲という女性と別れ、音信不通になってもずっと思い続けるという物語が軸となる。
 乙坂は小説家だが、彼女のことを書いた1作を世に出しただけで、そのあとは作品が書けないままくすぶっている。それは、彼女への思いをずっと引きずり続けているからだ。
 彼女は、違う男と結婚してしまった。しかもその男は暴力をふるうような人間で、そのせいで心と体を病み、最後は自殺してしまった。なぜ彼女は別のそんな男の元へ行ってしまったのか。乙坂には理解できない。それでも、ずっと彼女が忘れられず、20年も生きている。
 その美咲の妹と、同窓会で再開することから物語は進んでいく。
 この映画では、乙坂と美咲だけでなく、妹や、美咲と妹の娘までもの人生が、手紙というモチーフを通して、絡み合いながら進んでいくところがすごい。それぞれぞれが抱える苦しみや痛みを、おざなりにせず、優しく丁寧に描き出し、収斂させていく。
 そして、岩井監督作品ならではのみずみずしさの中で、それぞれが少しだけ救われていく。
 どんなふうに救われていくのかは、ぜひ映画を観て、わくわくしながら、しみじみしながら、味わっていただきたい。

ずっと思い続けるということ

 ずっと思い続けるということ。それは痛みを抱え続けるということかもしれない。
 誰もがそういう苦しみを抱えているんだなと思えて、少しほっとする。
 解決したり、幸せになったりはしないが、この作品は、かすかな救いを与えてくれた。観てよかったなと、温かい気持ちになれた。


 いろんなところで言われているが、女優たちが本当にきらきらと輝いている作品です。広瀬すずも、森七菜も、松たか子も。
 その中でも特に、松たか子が、内に秘めた思いを決して見せないで、日常を送っている姿が素敵だなと思いました。 

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