見出し画像

【創作シナリオ】短編ラジオドラマ『失恋の苦しみから抜け出す方法』

 noteの記事などを見ていると、いろんな形の別れの苦しみを抱えている人が、たくさんいます。それなのに、他の人にはなかなかわかってもらえない………不思議なものです。
 そんな苦しみを抱えた人たちへのささやかな応援歌のつもりで、この話を作りました。たぶん全然役に立たないでしょうが、短いですし、楽しく読めると思います(?)ので、よろしければ読んでみてくださいませ。


登場人物

田中稔(23) 小学生の稔(10)、高校生の稔(18)
梶谷洋子(23)稔の幼なじみ 小学生の洋子(10)、高校生の洋子(18)
稔の元カノ
田中の男友達A・B/女友達A・B
稔の小学校の女の先生/クラスメイト女子A/男子A・B
稔の高校の男の先生/洋子の高校時代の女友達
喫茶店のウエイトレス


あらすじ

 田中稔は、「私たちの関係は終わりにした方がいい」というLINEを最後に、彼女に突然振られた。わけがわからず、失恋で苦しむ稔は、救いを求めて友達に電話するが、みんな「時間が解決する」としか言わない。
 そんなとき、小学校から高校まで一緒だった梶谷洋子のことを思いだす。洋子には、小学校でお漏らししたときに始末をしてもらって以来、頭が上がらない。それではいけないと、高校卒業後に洋子離れをしていた。その洋子の意見を聞きたくて、久々に会った。
 洋子が提示した失恋を忘れる方法は、頭の中で彼女を完全に消し去る、つまり殺すというものだった。二人でいろんな殺し方を試してみるが、結局、稔は彼女を殺すことはできなかった。それを見た洋子は、実は自分も殺せなかったのだと告白する……


シナリオ

田中稔(モノローグ)「彼女にフラれた。3日前、LINEで『稔くん、私たちの関係は、もう終わりにした方がいいと思う。ごめんなさい。お元気で』というメッセージが届いた。すぐ返信したがブロックされた。電話にも出ない。家に行くと、なんと引っ越していた。それっきりだ。突然すぎて、わけがわからない。彼女はどんな顔で最後のメッセージを送ったのだろうと、ずっと考えている」

稔の元カノ(声)「(泣いて絞り出すように)私たちの関係は、もう終わりにした方がいいと思う。(鼻をすすりながら)ごめんなさい。お元気で」

稔(モノローグ)「いやいや、そんな悲しいなら、このひどい仕打ちはないはずだ」

稔の元カノ(声)「(怒ったように)私たちの関係は、もう終わりにした方がいいと思う! ごめんなさい。お元気で!」

稔(モノローグ)「やっぱり怒ってるのだろうか? でも何に? わからない。なぜだ? 考えると胸が苦しくなる。腹も立つ。でも何もしようがない」

  携帯電話の呼び出し音。

「(暗い声で)はい」
稔の男友達A(電話の声)「おい稔、どうした? 元気ないな」
「彼女に突然フラれて……」
稔の男友達A(電話の声)「えっ、なんだよ、突然。なんかあったのか?」
「さあ……もう死にたい」
稔の男友達A(電話の声)「ちょっと待て。早まるなよ。うーん、そうか……まあ、時間が解決するから大丈夫だ」
「無理だと思う……」
稔の男友達A(電話の声)「俺が絶対保証するって。元気出せよ。いつでも話聞くから。じゃあな。早まるなよ」

  電話を切る音。

稔(モノローグ)「それだけだったが、少し楽になった気がした。そうだ、ほかの友達の話も聞いてみよう」

  電話の呼び出し音がなり電話に出る。

稔の女友達A(電話の声)「何か熱中できることを見つけるのよ。趣味でも仕事でもなんでもいいから、忙しくして気を紛らわすの。最初はつらいけど、時間が経てばだんだん忘れていくから!」

  電話の呼び出し音がなり電話に出る。

稔の男友達B(電話の声)「復縁できる可能性だってゼロじゃないぞ。いかにしてこの苦境から脱して復縁するか、ゲームだと思って楽しんじゃえよ。じっくり時間をかけて作戦を考えようぜ!」

  電話の呼び出し音がなり電話に出る。

稔の女友達B(電話の声)「涙が枯れるまで泣いて泣いて泣きまくるのよ。悲しみの量には限界があるから。時間とともに尽きるわ!」

稔(モノローグ)「みんな俺のことを気遣って、優しくしてくれた。でも、口をそろえてこう言っていた……」

男友達AB・女友達AB「(声をそろえて)大丈夫、稔! 時間がたてば解決するから」

  机を叩く音。

稔(モノローグ)「だめだ。『時間が経てば』なんて俺には耐えられない。すぐに彼女の顔が浮かんでくる。もう無理だ。本当に死んでしまいたい……。
いや、待てよ。もう一人いた。彼女なら何とかしてくれるかもしれない。小学校の同級生、関西弁の女、梶谷洋子だ」

  ※回想場面始まる
  小学校の教室で聞こえるチャイム。

女性の先生「これで3時間目を終わります」
クラスメイト女子A「起立、礼」

  教室のざわめき。
  
クラスメイト男子A「おい稔。どうした?」
小学生の稔「なんでもない」
クラスメイト男子A「ん? あれ? お前おしっこもらしてないか。みんな、おい! 稔がおもらししてるぞ」
クラスメイト男子B「うわー、本当だ」

  クラスがざわつく。

小学生の梶谷洋子「(関西弁で)ちょっとどいてや」
クラスメイト男子A「なんだよ洋子」
小学生の洋子「床拭くからそこどいて」
クラスメイト男子A「あ、はい」
小学生の洋子「稔もや!」
小学生の稔「はい」

  床をモップで拭く音。
  ※回想場面終わり

稔(モノローグ)「梶谷洋子は、俺のおしっこをモップで拭いてくれた。彼女とは高校まで同じ学校に通ったが、それについて、何か言われたことは一度もない。しかし、このおしっこ事件以外、洋子と俺の上下関係は決まった……」

  ※回想場面始まる
  高校の教室で聞こえるチャイム。

男性の先生「進路希望の書類、明日までだぞ。大学は学校名だけでなく、学部・学科まで書くように。じゃあ、今日はこれで終わります」

  生徒たちが帰宅していく教室内の音。

高校生の稔「洋子はもう出したか」
高校生の洋子「稔、出してないんか?」
高校生の稔「忘れてた。資料なくしたかも」
高校生の洋子「なんでいつもそんなグズやねん。家帰って、なかったら電話し」
高校生の稔「貸してくれるの? ありがとう。でも、電話番号知らないけど」
高校生の洋子「『泣く子も黙る南風』の795―0373や」
高校生の稔「えーと、な・く・こ・まる・み・な・み……795―0373か」
高校生の洋子「ほんま、グズやな」
高校生の稔「グズって……」
洋子の女友達「洋子、もう帰ろ。稔のお世話なんてする必要ないって」

  二人が帰っていく足音が遠ざかる。
  ※回想場面終わり

稔(モノローグ)「洋子にはプライドをずたずたにされっぱなしだ。でも頭が上がらない。俺は高校を卒業したら、彼女からも卒業して自立しようと決めた。だから、それ以来音信不通だ。しかし、いまはぜひ、彼女の意見を聞きたい。……あ、あのときの電話番号、『泣く子も黙る南風』……よし!」

  電話の呼び出し音が鳴り、止まる。。

「あ、稔だけど……。あの、高校まで一緒だった田中稔。覚えてない?」
洋子(電話の声)「……ああ」
「超久しぶり。元気?」
洋子(電話の声)「……で?」
「実は、彼女に突然フラれて。頭から離れなくて、死にそうでさ……洋子なら何か言ってくれるんじゃないかと思って」
洋子(電話の声)「……ほんなら、日曜日、高校の前の喫茶店で」
「えっ? あ、はい」

  電話が切れる音。

稔(モノローグ)「こうして洋子と5年ぶりに会うことになった」

  喫茶店内に流れる音楽。
  ドアの鈴がカランカランと鳴る。

「(小さい声で)洋子、こっちこっち」

  椅子を引いて着席する音。
  
「久しぶり。無理を言ってごめん」
洋子「殺すしかないで」
「えっ?」
洋子「だから殺すんや。頭に浮かばないようにするには、存在を消すしかない」
「(小声で)殺すって、いきなりそんな」
ウエイトレス「ご注文はお決まりですか?」
洋子「コーヒー。ブラックで」
「え、洋子、ブラックなの? 大人だな。俺は砂糖とミルクありで」
ウエイトレス「メニューおさげします」
「あ、はい」

洋子「苦しみから抜け出したいんやろ?」
「(小声で)でも、まさか殺すなんて」
洋子「頭の中で殺すんや!」
「なんだ、そういうことか」
洋子「頭の中で、現実より完璧に、跡形もなく殺す!」
「ああ……で、どうすればいいの」
洋子「彼女の息の根を止める方法を考えや」
「うん……ナイフで刺す……とか?」
洋子「ほんなら、深夜の裏通りで、稔は彼女を待ち伏せする。そして……」
「いやいやいや。やっぱりできないよ。頭の中とはいえ、彼女を刺し殺すなんて、いくらなんでも無理だ」
洋子「根性なしやな! 自分で手を下さんなら、誰かに殺してもらうか?」
「いや、頭の中でも犯罪はだめだ」

洋子「じゃあ、雷に打たれる。(実際の雷の音と重ねて)ゴロゴロピッシャーン」
「彼女が黒焦げになるなんて想像できないよ。うーん、病気になるのはどう?」
洋子「不治の病で弱っていくけど、治療法がない。医者にも余命1週間と宣告され、みるみるやせ細っていく」
「ちょっと待って、それは可哀そうだ。俺が代わりになる!」
洋子「ええかげんにしいや! グズか!」
「ごめん……」

洋子「よし。じゃあ、阿蘇山の噴火口に、彼女は今立っているとする」
「阿蘇山は、行ったことある」
洋子「下には、広大な噴火口が広がっていて、噴煙も立ち上っている」
「吸い込まれそうだったな」
洋子「そこで、彼女は足を滑らせて、噴火口の中に落ちていく」
「おお、それならいけそうだ」
洋子「(実況中継風に)彼女は写真を撮ろうと柵にもたれる。その柵が何者かのイタズラで折れているのも気づかず」
「(実況中継風に)『チーズ』と言った瞬間」
洋子「(実況中継風に)あーゴロゴロゴロ」
「(実況中継風に)どろどろの溶岩に向かって真っ逆さまー」
洋子「(実況中継風に)わー」
「(実況中継風に)でも途中に岩があって、しがみつくー。……ごめん」

洋子「もうほんまになんやねん!……じゃあ、もうロケットに彼女を縛り付けよ。そして宇宙に打ち上げる。大気との摩擦で機体はすごい高熱になる。そして、彼女の体も跡形もなく燃え尽きて……」
「どうやってロケットに縛り付けるの?」
洋子「そんな些末なプロセスはどうでもええねん。縛り付けたとこから想像す……」

「(洋子の言葉をさえぎって)もういいよ。やっぱり殺せないよ」
洋子「だめや。完全に殺し切らないと、未練は断ち切れへん」
「洋子、鬼だぞ。いくら頭の中でも、やっていいことと悪いことがある」
洋子「(ぼそっと)そんなことわかってる」
「わかってるって?」
洋子「殺せないことはわかってんねん」
「どういうことだよ」
洋子「だって、私は殺せへんかったから」
「えっ、洋子もやったことあるの? だったら最初にそう言ってくれよ!」
洋子「言えるわけないやろ」
「どうしてだよ」
洋子「私はあんたを殺せへんかった」
「えっ、俺?」
洋子「せっかく忘れかけてたのに、なんで連絡してきた。しかも彼女にフラれたって。アホか!」
「あっ……ごめん」
洋子「失恋を簡単に忘れる方法なんてあるわけないやろ! とにかく、死ぬほど苦しんで苦しんで苦しみ抜けや!」

  コーヒーを啜って、カップを置く音。

洋子「それに、私は前からコーヒーはブラック。稔は砂糖ミルク入りやったわ」
「えっ」
洋子「それも覚えとらんのか。このグズ!」

  カランカランとドアの鈴が鳴る。

稔(モノローグ)「立ち去っていく洋子の口元は、ニヤッと笑っていた。でも、目には涙が光っていたように見えた」

  音楽。
                             (終わり)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?