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ブルーマウンテンに誘われて

今回の#日刊かきあつめのテーマは、「#これにお金かけてます」です。

そんなに余裕ある暮らしはしていないので、胸を張って書けるようなものは正直ないのですが…今日はこれにお金かけました。

***


昼下がり、どうもお腹の調子があまりよくない。ランチはごはんものでなく、温かいコーヒーと甘いケーキで気分を盛り上げたい。(コーヒーもケーキも弱った胃腸にはいかがなものかと思うが。) 
それに約束までたっぷり時間がある。
ゆっくり手帳を眺めたりしてリラックスして過ごしたい。
コロナ禍も手伝い久しくそんな時間を過ごしていない気がする。

本日のコーヒーはブルーマウンテン、という貼り紙に誘われて大通り沿いの小さな喫茶店に足を踏み入れた。

ほどなくしてウェッジウッドの小さなカップでサーブされたコーヒー。香りは、口に含む瞬間すーっと大きく息を吸わないと感じられないほど控えめ。あれ、コロナによる嗅覚異常か。しかし味はまあブルーマウンテンのそれであったと思う。
ケーキはりんごのケーキ、とやらを注文した。しばらく「ちゃんとした」ケーキを食べていない。胸を躍らせその登場を待っていたのだが、冷たくつるんとした出立のりんごのケーキに一瞬で

「もしや外注だな」

と悟る。ココア生地の上にゼリーで固められたダイス状のりんごの果肉が乗っている。
ひとくち食べて確信。

「うん、外注だ」

まずくはないが、スポンジ生地のパサつきといい人工甘味料と思われる鋭い甘味といい、工場で大量生産された業者の味。
改めてお店を見回すとカウンターは小さくお湯を沸かしてコーヒーを淹れるので精一杯のサイズ。ケーキ作りまでは無理そうだ。少し考えれば分かりさそうなものの初めての店でドギマギしうっかりしてしまった。
外注するにしても、業者じゃなんとなく味気ないやん。せめて店主の知り合いづてのお菓子作りが得意なマダムのケーキとか食べたかったな。(誰…!?)

あの喫茶店はどうだったかな。
地元にいた頃、私にはお気に入りの喫茶店があった。カフェではなく喫茶店。コーヒーのこだわりが素晴らしく豆の種類が豊富な上、素人でも分かりやすいようにメニューのところにチャートで酸味がどうとか苦味がどうとか示されており、自分の好みに合わせて選べた。サイフォン式なのもポイントで、2、3杯は飲める。
    
ログハウス作りの店内はこれが都内だったのなら新鮮なのだが、店の外もナチュラル(自然いっぱいの田舎)なので外界に妙にマッチしてかえって垢抜けない印象になってしまっていた。でもそれがなんだかほっこりしたし、何よりいつも店内は濃厚なコーヒーの香りに満ちており入った瞬間から癒されたものだ。

ケーキは自家製のシフォンケーキやロールケーキだったかな。ぽってりごろんとしていて素朴なんだけどわかりやすい美味しさで和むケーキだったことは確か。出かけたついでに家族で一息ついたり、ひとりで行ってぼーっとしたり。
コーヒーを傍にただ佇むだけの時間。
家路に着くとたったそれだけのことで、それまでのもやもやが晴れているから驚きだった。
わたしのささやかな日常の小さな寛やぎ時間だったな、懐かしい。




さあ出よ。コーヒーを飲み干したら手帳を1ミリも開く事なくそそくさと店を出て来てしまった。
本日の喫茶代、淡い香りのブルーマウンテンと冷凍りんごのケーキ、千二百円也。
立地代、と言われてしまえばそれまでだが、前出の喫茶店と変わらないお値段。
私は今日これにお金をかけたよ、コスパ最低、と言う意味で泣。

文:べみん
編集:アカヨシロウ

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