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 赤いレンガとショパンの調べ

 赤いレンガが積み上がっている。そばには様々な道具が打ち捨てられている。スコップ、ハンマー、ノコギリ。誰かがここでなにかをつくろうとでも。目を閉じて空気を感じる。ひんやりと冷たい風が体の右側から吹いてくる。今日は南風だっただろうか?少なくとも、右側には何もなく障害物もない。音はかすかにきこえる。夢から覚めた時に聴く音。目覚めたときのワルツのよう。踊り明かした眠りの国の妖精たちが眠りにつく時間。ふと、われに帰って、時計を見る。18時を5分32秒こえている。おかしい。さっきまで、まだ15時だったはずなのに。そういえば家を出るときに持っていたカバンがない。私はおそらく、、、。いやな予感がして、振り向く。そこには影が立っている。静かな影はゆらゆらと”そこに存在しようか、しまいか” 迷っているように立っている。
「なにか?」いつもの、やり取りが始まる。影は無表情に私の存在を認めている。口を動かすが、音は聞こえない。ショパンのピアノが、、、いや、ここは部屋。グランドピアノが置いてある。誰かが弾いている。赤いレンガの家。どこにある?その側に立つマクスウェル。「方程式は、私の方程式は?」悲しみのこもった声。「すべて旋律で流し去ったよ。そのための鏡だった」寓意によって、開かれた門が、また再び開き出す。限界をこえた幽玄(有限)が、存在の琥珀へと光出す。お互いに関係しあったタンポポとバッタがすでに遊びはじめている。その間をレイチェル・カーソンが踊っている。とてもゆっくりとした太極拳のように回転する。きっと今ではこの世界。「どうなの?」
 私が問いかけると影はうなずく。マクスウェルはすでにペンで何事かを計算している。独り言を微分がどうとか 言っている。まだここにあったのか。あの失われた黄昏は。
 太陽が沈み。夕日も消えてしまった中に赤いレンガが暗がりに残る。赤いものとも、黒いものとも、わからないその物体を手に取る。ざらりとした感触。身を焦がす熱(’かつてレンガが感じたであろう灼熱)を冷徹な眼差しで凍らせると影がよってくる。「もう気がすんだか?」影は無表情に背中を向けて暗闇の中にとけこんでいく。帽子をとると鏡を見る。「うん。今日も元気なようだぞ」
 


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