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年齢の呪い

気づけば、40歳になっていた。

女にとって、年齢は呪いだ。歳を重ねるたびに「新鮮じゃなくなってしまったかもしれない自分」と向き合い、でも気持ちに折り合いを付けて前に進まないといけないのだ。

そしてそれは、自分の中からではなく他者からの言葉で気づかされることが多い。

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わたしが19歳のころ、アルバイト先の居酒屋に新しくバイトとしてやってきた23歳のマスミさん。

雇い主のママさんは彼女を紹介するときにこう言った。

「マスミちゃんは若く見えるけどもう23歳なのよ。ミカちゃんより大分年上だけど、仲良くしてあげてね」

ママさんの紹介に全く悪意はなかったと思う。でも、マスミさんはママさんの言葉を受けて、わたしにとても申し訳なさそうな顔をしながら「よろしくね」と言ったのだ。

今でも時々、この時のマスミさんの表情がわたしの脳裏に浮かぶ。

わたしはマスミさんよりも早く、その居酒屋を卒業することになった。

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25歳になったころ、わたしは大阪の劇場主催の演劇フェスティバルに出ることになった。

"女性作家フェス" と名付けられたその演劇祭にはたくさんの女性クリエイターたちが集まった。

さて、わたしが自劇団の制作者として、女性作家フェスのプレス発表の場に参加したときのことだ。

そこで、同じくフェスに参加していたYさんから声をかけられた。元々知らない仲ではなかったので、他愛もない話をしていたのだと思う。

「そういえばさ、水口さんって今いくつなんだっけ?」

「25です」

「そうかあ、まだまだ若くていいなあ。わたしなんてもう28だよ」

そう言って、Yさんはアハハと笑った。

このときのYさんの笑い声が忘れられない。

そして、30を目前にして、わたしは段々と怖くなってきた。女性は30を過ぎると、どうやら新鮮じゃなくなるらしい。

もう直ぐわたしは30だ。

私の手がけている劇団のメンバーも30を迎える。

30歳を超えた女子のアイドルグループは知らなかった。

でも、SMAPだって、ドリフターズだって、いくつになっても輝いていた。むしろ歳を重ねるほど輝きは増していた。この違いは何なのだ。

わたしは、このときほど男性が羨ましいと思ったことはなかった。

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30歳を目前にしたある夜のこと、わたしはある女優さんと出会うことになった。

映画『かもめ食堂』の公開に合わせて神戸で行われた、もたいまさこさんと片桐はいりさんのトークショー。わたしは、そのイベントフライヤーをデザインさせていただいたご縁で、トークショー後の打ち上げに参加させてもらったのだ。

末席でちびちびと烏龍茶を飲んでいたわたしを見て、トークショーのコーディネーターのOさんが、もたいさんにわたしを紹介してくれた。

「もたいさん、彼女はね、神戸で女性ばかりの劇団をプロデュースしているのよ。デザインも出来る子で、今回のフライヤーのデザインをしてもらったんです」

「あら、そうなの! わたしの似顔絵、描いてくれたのね、すごく似てて皆に見せてまわったわ、ありがとう」

嬉しかった。フライヤーは、はんなりしたムラサキ色ベースに、レトロなタッチのもたいさんと片桐さんの似顔絵をデザインしたものだった。今でもわたしのお気に入りの一作だ。

わたしは、もたいさんに自分の心のモヤモヤをきいてもらおうと思った。

「女優たちが、30を越えても旬でいられるにはどうしたらいいんでしょうか?」

もたいさんは、待ってました、とばかりに、目を輝かせてこう答えてくれた。

「30過ぎたら女優は大変よ。それまで役名がついてちゃんと背景がある役がきていたのに、とたんに『お母さん』とか『保母さん』とか、記号の役ばかりになっちゃうの。どのドラマも主役は男ばっかり。

だからね、『かもめ食堂』は画期的な作品なの。中年の女優が主役の映画で、しかもこんなおしゃれなものって今まで無かったでしょう。

時代は変わるのね。これまで頑張ってきて、本当によかった。

これからは「中年女優」の時代よ。わたし、諦めていない」

わたしにかけられていた年齢の呪いが、見事に解けた瞬間だった。

その後の会話は覚えていない。

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それから10年余、わたしは40歳を迎えた。

いつのころからか「23歳以上は同い年」というテーマで生きている。

こういう仕事をしていると、上から下まで様々な年代の人と会うことになる。話のとっかかりとして、「おいくつですか?」という流れによくなる。

そこで、大きく年の離れた人に対しては「わたし、23歳以上は同い年というテーマで生きてるので、どうかそのつもりで接してくださいね。」と伝えることにしている。

わたしよりずっと若い人にも、ずっと年上の人にも、「おかしな40歳が来たぞ」と思われていると思う。

でも、それでいい。

これは、自分で自分にかけた魔法の言葉だ。

わたしは40歳。

50歳になっても、60歳になっても、呪いには負けない。

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▼水口美佳 Twitter
https://twitter.com/MikadillyCircus
神戸-大阪-東京-ロンドンを駆け巡るフリーランスのイベントプランナーであり、Podcast「妄想ロンドン会議」パーソナリティ。「こんなイベントやってみたいけど、何から始めればいい?」というお悩みに答えます 。※ご相談は→mizugucchi@gmail.comまで!

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