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VUCAの時代だからこそ洞察力を磨き、MUST・CAN・WILLを前進させる

給付費分科会の動向

8月に入り、社会保障審議会 給付費分科会にて、2021年4月に予定されている介護報酬改定に関わる団体ヒアリングが始まりました。

聴講していて残念に思うのは、各団体の主張のなかに、「現場が大変なのでなんとかして欲しい」といったお涙頂戴の主張をいまだにしているということです(もうそろそろ調査データなどの根拠に基づいた主張をしていただきたいですね)。
Youtubeのライブ配信のためリアルタイムでしか聴講することができませんが、各団体からの主張ポイントは、以下の3点です。

①加算の要件緩和・報酬アップ
②基本報酬のアップ
③新型コロナウイルスに対する施策

①加算の要件緩和・報酬アップは、例えば特養において、「排泄支援加算」「褥瘡マネジメント加算」の取得状況は高くありません(現場では当たり前に行っている取り組みであっても、事務手続きの手間の割に加算単位が低いため)。
算定要件緩和や加算単価アップを検討しなければ、ただでさえ間接人員(直接介護職員以外の人材)に裂く人件費を捻出するのが難しい現場において、積極的に加算取得を検討するには至らないでしょう。

裏を返すと、間接人員(直接介護職員以外の人材)にゆとりがあれば、加算要件に関わる事務手続きも容易となり、算定率は向上するかもしれませんし、事務機能の強化から役割分担が明確となり、介護職は直接介護業務に専念できるかもしれません。
固定費である人件費の構成内容(直接介護職員(正規・非正規)、間接介護職員(正規・非正規)、派遣職員など)をどのように設定するかは法人の経営方針に関わる部分が大きいといえます。

職員配置基準"緩和"の落とし穴

「②基本報酬アップ」にも関わる主張ですが、介護分野においては、人材確保がますます困難となり、介護職員以外にも、看護職員などの専門職の配置基準の緩和を求める声が増えています。

例えば、特養においては介護・看護配置基準3:1というのがありますが、国調査(介護事業概況調査)においても、2:1になっている実態が報告されています。
介護人材不足の煽りを受け、福祉機器・介護ロボット、ICT化を促進することにより、3:1基準の緩和、要するにより少ない人員配置でも現場が回る環境構築を進めようとしています。
ただし、3:1基準では、①現場(シフト)が回らない(シフトに穴が開く)、②有給休暇5日取得が達成できないことことは伝えている通りです。
さらに「人員配置の緩和 = 介護報酬のマイナス改定」といった論点がすり替えられて、主張そのものが不利にならないか懸念しています。

例えば、特養における3:1基準で100単位のところ、4:1基準に緩和するので75単位にされてしまっては、2:1と手厚い職員配置している実態に対して半分の報酬に引き下げられてしまう可能性があります。
給付費分科会の事業所ヒアリングの中でも、「人員配置基準の緩和 ≠ 基本報酬のマイナス改定」を主張していく必要があります。

人員配置基準という点では、たびたび給付費分科会でも議論になっている級地区分の取り扱いにも少し触れておきます。

介護補習

級地区分とは、「直接処遇職員」の人件費に相当する部分について、1級地からその他に区分される国家公務員の調整手当を基本とした地域区分を設け、地域差の勘案を行う"ために設定された掛け率で、人件費割合という箇所に①70%、②55%、③45%と記載があり、それぞれのサービス種別が記載されています。

要するに総額人件費に占める「直接処遇職員」は45%と見積もって、級地区分(係数)を設定しているということです。
裏を返すと、「直接処遇職員」の45%を上回る人件費(間接職員)などは経営努力をしなさいというメッセージとも受け止められます。
間接職員を除いても、おそらく「直接介護職員」だけで45%で収まることはなく、級地区分の人件費割合は実態に合っていないと指摘すべきポイントと言えます。

隣接特例

級地区分による経営格差の影響がある地域においては、隣接地域における特例が認められ、級地区分を変更することができることが認められました。

しかし、「級地区分を変更すること = 利用者負担額が増える」ため、級地区分の変更は政治的判断が必要と言われているそうで、隣接地域における格差の抜本的な解消までには至っていません。
級地区分の格差はある意味、各自治体の政治的判断に委ねられているといっても過言ではないでしょう(特例という選択肢が設けられたので、給付費分科会でもあまり議論にあがらなくなりましたね)。

機能強化・ピボットを見据えたMUST・CAN・ WILL

「③新型コロナウイルスに対する施策」としても、介護や福祉分野のデジタル化を加速させるための加算や助成金などを手厚くしてくるのではないかと思います。
年末にかけて、給付費分科会で議論が重ねられると思いますが、より少ない人員配置でサービス提供できるような合理化・効率化(兼務職員、職員配置基準緩和、サテライト型施設の承認など)が図られ、サービス種別ごとの機能強化や機能変更(ピボット)の方向性が示される動向はキャッチしていただきたいと思います。

新型コロナウイルスの影響により、これまで何も疑わずに通所してきた利用者が、実は利用する必要がなかったなんていう事例も出てきているわけです(見方を変えれば、社会保障費の無駄遣いと言われても仕方がありません)。

デイであれば、入浴やレクリエーションの提供の場から、生活機能向上連携加算や ADL維持等加算、栄養スクリーニング加算に代表されるように、将来的な施設入所を見据えて、いかにADLの低下を緩やかに抑制し、在宅介護期間を伸ばせるかが、地域包括ケアシステムにおけるデイが担うべき機能に位置づけられるかもしれません(通所リハビリが機能回復・社会参加に重きを置いているところの住み分けが必要)。
特養であれば、看取りは当たり前で、末期がんや医療依存度の高い方でも高齢者の終末期ケアを提供できる"ホスピス的な福祉施設"という位置付けが示される可能性もゼロとはいえません。

新型コロナウイルスにより、新しい生活様式が徐々に一般化していくなか、「昔はこうだった」(フォワードキャスティング)ではなく、「これからどうするか」「これからどうしていきたいか」(バックキャスティング)という視点で事業の機能強化や機能変更(ビボット)を検討しなければ、With コロナやAfter コロナ時代を生き抜くことはできません。
今や飲食店がテイクアウトを強化し、Uber Eatsが配達網を担う時代が当たり前になり、そのような利便性や外食産業の多様化のニーズにどう適応していくか考え、行動していかなければ生き残りは難しいといえます。

法人・事業所としてのWILL(やりたいこと)を実現していくためには、MUST(すべきこと)を着実に実行し、CAN(できること)を増やし、事業拡大や顧客獲得をし続けることが必要です。
職員の育成においても、MUST(すべきこと)なくして、CAN(できること)は増えませんし、WILL(やりたいこ)の実現は叶いません。
私事ですが、子育てにおいてでも、子どもにとっては耳の痛いことをついつい口にしてしまうのは、親として子どものWILL(やりたいこと)を実現させてやりたいという思いからであり、共感しているからこそ、MUST(すべきこと)や CAN(できること)の必要性を伝えているわけです(子どもも他人ですから、いうことなんて聞きやしませんよ(苦笑))。

新型コロナウイルスをはじめ、先が読めない VUCAの時代だからこそ、次期介護報酬改定の動向を注視するとともに、その洞察からMUST(やるべきこと)・CAN(できること)・WILL(やりたいこと)を着実に前に進められる準備をしていきましょう。

管理人

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