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ため息俳句 停電

 連日連夜の雷注意報。
 今夜も予報通りに、襲来した。
 そして、珍しいことに停電。
 ほんの一、二分で復旧して灯りがついたが、このごろのテレビはアンドロイドが仕込まれていて、ちょっと不具合をきたした。再起動して解決。
 さて、北埼玉は昔から雷の多発地帯であった。
 雷がやってくると、一家全員、雨戸を閉めて家に籠もるのだが、それだけではなく、蚊帳かやを吊って、その中に避難までし、近くに雷鳴が聞こえると、「トオクノクエワバラ、トオクノクワバラ」と呪文を唱えるのであった。
 なぜ、蚊帳に逃げ込むのかと母に訊くと、雷の本体は電気であり、その電気が火の玉になって地上に落下してくる、稲光というのは光ながら落ちてくる様である。雷は時に屋根を突き破って、家の中に落ちてくることがあるのだ。その時、蚊帳は麻であるから、電気を通さない、そこで座敷に落ちた雷の火の玉は、ごろごろと部屋中を転げ回るが、決して蚊帳の内には侵入できない、蚊帳は、人を守ってくれるのだというようなことを、真顔で云うのだった。
 自分はもう随分と年寄りになり、義務教育レベルに毛が生えた程度としても、多少の科学的知識を持ち合わせているのだが、幼少期に聴いた母の話を未だに信じることに決めている。
 さすがに、呪文を唱えることはやめたが、それに、臍をとられるという恐怖感からも解放されているが、電気の火の玉は、リアルに恐ろしい。
 例の計画停電の記憶よりも、ガキ時分に頻繁に雷による停電があったのをよく憶えている。父のいない夜などは、お袋と三人の子供が、おぼろげな懐中電灯を点して、なかなか「灯り」が届かない蚊帳の中で、賑やかな晩を過ごしたのだった。敗戦直後に建てた安普請の家で、雷鳴は云うまでないが雨風にもかすかに揺れる、そんな夜だった。そうした時、恐怖を紛らわせるのには、馬鹿話で大笑いするのが一番だと、この頃知ったのだと思う。

停電や母子はむつみぬ蚊帳の内

それ落ちたトオクノクワバラ高くせよ

やれひょうかトタン屋根とてあなどるな