見出し画像

殴られても殺されても一人ぼっちよりはいい💗『嫌われ松子の一生』 

《乱れ撃ちシネnote vol.006》 22.10.01

『嫌われ松子の一生』 中島哲也監督 2006年 日本

【Introduction】

ちょっとしたことで人生の階段を踏み外した川尻松子が奈落の底まで落ちきる哀れな人生をポップに描いたおかしさに彩られた哀しみのバラードです。
中谷美紀の美しさを描かずひたすら哀れな女に仕上げた中島哲也監督の力技とそれをやりきった中谷美紀との見事なコラボレーションによる作品です。

【Prologue】

ハードポップな音楽が流れコントラストの強いPV的映像で女性ボーカリストが歌う顔のアップ        
(クレジット) ーDREAMー
                       ー夢ー


その映像は渋谷スクランブル交差点の大型ビジョンに映されている映像だった。カメラがスクランブル交差点をパンする。

(クレジット)  2001年.JULY.10
                 平成13年7月10日

✽モノローグ
〈夢を見るのは自由だ〉
ストリートで踊り狂う若者たち。

(クレジット)SHIBUYA 15:00
         渋谷 午後3時

再びストリートで踊り狂う若者たち。

✽モノローグ
〈でもその夢を叶え幸福な人生を送れる奴なんてほんの一握りだ〉

階段に座っている二人の女子高生の間にいきなり割り込んで女のコに語りかけるチャラい男。
「ちょっとごめんね〜、ねえねえねえタレントにならないキミ可愛いからさ絶対タレントになれるからさ行こっか」
いきなり声をかけられて不信顔だった女子高生は照れながらも嬉しそうなキラキラ目に変わりすっかりその気に。

スクランブル交差点の俯瞰映像。
✽男のモノローグ
〈だから、そうじゃないその他大勢は・・・〉

(クレジット) MAKUHARI 15:00
         幕張 午後3時

ジムのベンチでだぶついたお腹の肉をつまむ女。

✽モノローグ
〈悲しいため息をつくか〉
顔中傷だらけの男が薄汚れたバーカウンターでウイスキーを煽る映像。

✽モノローグ
〈惨めに酔いつぶれるか〉
サイレンが流れ救急車とパトーカーが停車し、現場へ急ぐ警官の映像。

(クレジット) ARAKAWA 15:00
        荒川 午後3時

草むらに埋もれた死体を覗き込む警官たちの映像。

✽モノローグ
〈さっさと人生終わらせるか〜〉

(クレジット) OGIKUBO 15:00
            荻窪 午後3時

ラーメン屋で食べたあとのカップル。
女がぼそっと『別れよう』と口にする。
苦笑いする男。

✽モノローグ
〈笑ってごまかすか〉

ラーメン屋のテレビでは午後のサスペンス劇場を放送中。

✽モノローグ
開き直って犯罪に走り片桐なぎさに追いつめられるか〉

女(柴咲コウ)がぼそっと口にする。
「笙(瑛太)といると生きてるのがつまらなく思えてくるっていうか死にたくなるの」

✽モノローグ
〈どっちにしてもお先真っ暗で〉

クラブで踊り狂う男女のカット。
「バンドもやめちゃってこれから何して生きてくの〜」
クラブで踊り狂っていた笙が叫ぶ。
セックス! セックス! セックス!

レンタルビデオ屋のアダルトコーナーでニヤニヤしながらDVDを選んでいる笙。
レンタル屋のテレビでは午後のサスペンス劇場の片平なぎさが「今なら間に合う」と海に飛び込もうとしている男に語りかけている。

テレビを見つめる笙。
「もう一度やり直すのよ」と片平なぎさ。
テレビ画面を食い入るように見つめる笙。
「無理!」と言って海に飛び込む男の顔が笙に変わっている。
海中に沈んでいく笙の声。
「懐かしい声が俺を呼んだような声がした」
海中を泳ぎ回る魚たち。
いつの間にか魚がまるでエッシャーのメタモルフォーズのように鳥に変身して空を飛び回っている。
音楽がドラマチックに鳴り響き・・・

(クレジット)  Starr ing
      MIKI NAKATANI

以下出演者がローマ字でクレジットされる。

(画面変わって)
真っ赤な夕焼けに染まった海辺に立って歌っている女の子の後ろ姿をゆっくりズームアップ。
画面の外から男の呼び声。
「松子!」
振り返った女の子が寄り目でタコ顔するとパシャっとシャッターを切る音。
女の子の顔が写真に変わり彼女の人生を飾った何十枚ものモノクロ写真の中に埋まる。

      【タイトルクレジット】
       MEMORIES
          OF
       MATSUKO
         嫌われ松子の一生


強い西陽にうだる狭いアパートの一室に寝ている笙(瑛太)。
笙の横で散らかっているエロビデオを手にとり眺めている男(香川照之)。

男の気配に気づいた笙が飛び起きると、
「元気にしとったか」と男。
「なんなんだよいきなり」
「ま、ちょっと お前に頼み事のあっと」

✽笙のモノローグ 
〈ミュージシャンになるというありがちな夢をいだいて18歳で故郷福岡県大野島を飛び出したオレとオヤジの、それは2年ぶりの再会で〉

ビヨ〜ンと弦を弾く音。
スタンドに立てかけたエレベーの弦をはじいて舞い上がったホコリに咳き込むオヤジ。
部屋に置かれた白い箱を指差して笙が「これなに?」と問いかけると「お骨たい」とオヤジが答える。
「母さん?」と笙。
「ふ〜 ゆずらんかったばってん俺には2つ年上の松子っちゅう名前の姉がおって、もう30年ぐらい前に蒸発してそれっきりになっとったと」
いそいそとエロビデオを片付ける笙。
「それが三日前公園で死んどるところを見つかったっちゅうて」

✽笙のモノローグ
〈父はとりあえず上京しその姉を荼毘に付した〉

オヤジがため息まじりで「53歳でアパートで一人暮らしやったげな」
✽笙のモノローグ
〈父の頼みとは今日中に帰らなけりゃならない父に代わってオレにその人のアパートの後片付けをやれっということで〉

父親から渡された住所の書かれた紙切れを見る笙。
遺骨を抱いてアパートを出る父。
「どうしようもなか〜ねやった、最後はこげな殺され方、ふ〜」
「殺された?」
「犯人はまだ捕まっとらんと。どっちにしてツマラン人生だ」と言ってアパートを去る父親。

窓から遠ざかる父親の後ろ姿を見送りながら
「つまらん人生・・・」ぼそっと笙がつぶやく。

(画面変わって川べりの風景)
✽笙のモノローグ
〈平成13年7月10日午後四時頃、東京都足立区荒川の河川敷で中年女性の死体が発見された〉
草むらに埋もれる死体、捜査中の警官、現場の人だかり、事件を告げる新聞記事のカットバック。

✽笙のモノローグ
〈警察の捜査により女性は近所のアパートひかり荘202号室の住人川尻松子52歳であると判明〉

草茫々の空き地のとなりに建てられた廃屋寸前のアパートの錆びついた鉄階段を2階に登る笙。
カメラはクレーン移動移動しながらズームアップして笙を追う。

✽笙のモノローグ
〈なお死体は全身に激しい暴行を受けた跡があり警察は殺人事件と断定〉
酒瓶、新聞、雑誌、食べ物の残りかす、プラスチックの容器、家電、紙くず、身のおきどころがないほど大量の汚れでゴミ屋敷と化したアパートの一室。

「クセ〜」
「なんなんだよ」とぼやきながら後片付けをする笙。
うんざりしながらも一息していると部屋の壁に貼られたボロボロのポスターが目に入る。
「光GENJIって」

戸棚の中から引っ張り出した汚れたふとんと一緒に飛び出したボロボロのバッグの中の封筒に一枚の写真。
着物を着た若い女性が寄り目でタコ顔している。

驚く笙「これが?松子さん?」

部屋の入口の壁に書き殴られている文字を見つめていると、
「それは四日前に死んじまったこの部屋の住人が書いたもんだぜ」と、
エレベを手に持ち全身入れ墨モヒカン頭のパンク兄ちゃんが突然声をかけてくる。
「社会のルールもご近所迷惑もお構いなしさ。ファッキンクレイジー」とキッスのジーン・シモンズばりに舌なめずりして近づいてくるパンク兄ちゃん。
「あの〜オレは その〜亡くなった住人の親戚で」
全身入れ墨の男の体のカットバック。

✽笙のモノローグ
〈男の名は大倉修二(ゴリ)隣の住人でそのデタラメな外見に似合わず・・・〉
「オレという人間をこの体に刻みつけているのさ」だと。

部屋の片付けを続ける笙、大倉は部屋に居座り
「このアパートのさ、鼻つまみ者でさ、嫌われ松子って呼んでいる奴もいたな、ゴミの収集日は守んねえしさ、誰とも口きかねえし」
大倉の横を通り過ぎる松子のフラッシュバック。
「体から変なニオイするしさ、突然夜中に変な声だして暴れまわったりするんだぜ、ひやぁ〜〜って」
「すぐそこの土手でよく見かけたけどいっつも座って川眺めてたな、あ〜」
「川?」と笙。

窓を開けて外を眺めると高級車で乗りつけた黒服を着た怖そうなお兄さんたちが笙の姿を見かけてにらみつける。
今までのシーンが短いカットバックで流れます。

川尻松子がどんな人生を送り最終的に殺されるに至ったかの物語がここから始まります。

【Trivia & Topics】

◯松子の切ない人生。
中学校の音楽の先生で歌が上手で明るくて人気者だった川尻松子が荒川の河川敷で死体として見つかるまでの53年間の波乱万丈の人生は切ない。

◯寄り目タコ顔。
松子が何かというと寄り目タコ顔する意味・・・。

◯ところどころで流れる曲「まげてのばして」が印象的です。
60~70年代の幼児番組「ロンパールーム」でうつみみどりが歌っていました。
原曲:「Bend and stretch」。
作詞・作曲:ナンシー・クラスター(Nancy G. Claster)

まげて のばして お星さまをつかもう

まげて 背のびして お空にとどこう

小さく まるめて 風とお話ししよう

大きく ひろげて お日さまをあびよう

みんな さよなら またあしたあおう

まげて のばして おなかがすいたら帰ろう

歌を うたって おうちに帰ろう


◯川尻松子のPV。
この作品は若い頃のちょっとしたボタンの掛け違いがもとで人と一拍ずれてしまい、人とのハーモニーに加わることが出来ず、不協和音にまみれたジェットコースター的悲劇の人生を送らざるを得なかった心優しい川尻松子の血塗られたパステルカラーに彩られたプロモーション・ビデオなんです。
松子ならずとも人生って何?(what is  a life)と問いかけたくなる作品です。

◯殴られても殺されても一人ぼっちよりはいい。
 川尻松子の本音。

◯受賞歴
・中谷美紀
 第30回日本アカデミー賞 主演女優賞
 第61回毎日映画コンクール 主演女優賞
 第80回キネマ旬報ベスト・テン 主演女優賞
 第31回報知映画賞 主演女優賞
 第1回アジア・フィルムアワード 女優賞
・ガブリエル・ロベルト、渋谷毅
 第30回日本アカデミー賞 音楽賞 
・小池義幸
 第30回日本アカデミー賞 編集賞


【鑑賞ガイド】
😁😁😁😁
~~~~~~~~~~~~~
😁😁😁😁😁:見事な作品。
😄😄😄😄:お勧めです。
😀😀😀:楽しめます。
😔😔:苦手です。
🥵:途中下車。
~~~~~~~~~~~~~

【巷のうわさ】
Filmarks:☆☆☆★(3.6)

u-next   :☆☆☆☆★



昨日の『下妻物語』の2年後に公開されたこの作品でまたまた中島哲也ワールド炸裂!

「この役を演じるために女優を続けてきたかもしれない」と語ったほど惚れ込んだ中谷美紀ですが松子の過去を探る笙役の瑛太もなかなかでした。

明日はその瑛太の映画初主演作『サマータイムマシーン・ブルース』です。
たくみな構成と楽しそうに演じる役者たちのハーモニーが絶妙。
昨日と今日を行き来する爆笑四畳半タイムマシーン映画です。



電子書籍「きっかけ屋アナーキー伝:昭和♥平成企画屋稼業♥ジャズもロクも本も映画も」を販売しています。
Kindle Unlimitedでもお読み頂けます👇


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?