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《乱れ撃ちシネnote 番外編》 今野雄二さんの命日にあたって〜2023年07月27日〜

《乱れ撃ちシネnote 番外編》

今野雄二さんの命日にあたって。
〜2023年07月27日〜

【Introduction】
今日で13年経ちました。
2010年7月27日、映画・音楽評論家の今野雄二さんが66年の人生を自ら閉じました。
代官山の自宅アパートで首を吊って自殺しているところを発見され、死後数日は経っているだろうと報じられました。
その前年には加藤和彦さんが翌年には中村とうようさんが自殺しています。

加藤和彦
中村とうよう


ロック、精神世界、ドラッグカルチャー、オーガニック、サイケデリック、ヒッピー・ムーブメント、ガイア思想などの洗礼を次々と浴びた毎日がお祭りで浮遊しているような1970年代に区切りがついた。

少なくともぼくの中で70年代は終わった。

初めてお会いした時の今野さんは「an an」の編集者だった。
しばらくしてフリーになった今野さんは映画や音楽、文化、ファッションのコメンテイターとして雑誌やテレビで活躍するようになった。
日本テレビの深夜番組「11PM」で映画・音楽・フアッションなどの最新情報のコメンテイターとして登場するようになり愛川欽也から「コンちゃん」と呼ばれそれが今野さんの愛称になった。

ぼくはレコード会社の洋楽で働いていたのでレコードの新譜が発売されるたびに出版社、ラジオ局、新聞社、音楽専門誌、通信社、編集プロダクション、フリーランスの評論家の方々にサンプル盤と手作りの資料を持ってプロモーションのため日夜都内を駆けずり回っていた。
その当時のエピソードはKindle書籍「きっかけ屋アナーキー伝:昭和♥平成企画屋稼業♥ジャズもロックも本も映画も」に書いている。

メディアの人間や評論家の方たちに記事を書いてもらう側の人間というのは立場が弱い。
否、ほんとうは当時深夜放送のDJとして飛ぶ鳥落とす勢いの亀渕昭信さんに「どうして君たちは放送局の人間に頭を下げてばかりいるんだ。局の人間は君たちからアーティストの最新情報を提供されているというだけで立場は対等だ。ヘイコラするんじゃないよ。そんなこと続けていると日本の音楽業界もアメリカみたいにペイオラ事件が起こるぞ」と叱られたように、ぼくたちはペコペコする必要なんかないんだ。

ところが媒体側の人間や評論家と打ち合わせする時のお茶代、食事代、飲み代すべてこちらが負担するのが暗黙の了解になっていた。「今日はぼくがご馳走しますから」と声をかけてくれたのはジャズ評論家の清水俊彦先生今野雄二さんだった。

ピーター・フォークがエミー賞を受賞したテレビ映画「トマトの値段」や「カリフォルニア・ドリーミン」のヒットなどで有名なママス&パパスのメンバー、ジョン・フィリップスの元妻でたった2本の映画に出演しただけで引退してしまった女優・モデルのジュヌヴィエーブ・ウエイトの『ジョアンナ』の話しが通じたのは今野さんだけで二人して「あれは良かったよね〜」と大喜びしたことを思い出す。
それが今野さんと初めてお会いした1970年のことだ。

ジュヌヴィエーブ・ウエイト
ジュヌヴィエーブ・ウエイト



つい先日今野さんの未発表小説集「恋の記憶」(2014)を読んでびっくりした。

「恋の記憶」 今野雄二著

同性愛を扱った雰囲気のあるとてもいい小説だった。
次に読んだ「恋する男たち」(1975)はお気に入りの男優やミュージシャン、映画に関するエッセイ集で今野さんの感性はいまだにキラキラ輝いて素敵だった。

「恋する男たち」 今野雄二著


二冊とも☆☆☆。

次に読んだ「今野雄二映画評論集成」は分厚い本なので最初は興味のある監督や作品の部分だけ広い読みしていたが面白くて止められなかった。
この本は☆☆☆☆。

「今野雄二映画評論集成」

人と群れたり世評に惑わされることも配給会社にへつらうこともなくインディペンデント精神を貫き通した今野さんの文章は明解だ。

「映画はテーマ(内容)ではなくスタイル(形式)」だという今野さんの姿勢が反映して映像が思い浮かぶ文章が秀逸だ。
それとともに他の多くの批評家が見逃している音楽に関しても造形の深い今野さんの文章はまさに映画そのものだ。

例えば、
ニューロック映画の代表作のように絶賛されている『イージー・ライダー』を単にロックをオートバイの走るシーンのBGMに使っただけのフォニー(まがいもの)だと切り捨てていることに激しくぼくは共振する。

すでに1971年のキネマ旬報に書いている映画評で“ストレート”と“クウィア”について書いている。
クウィア(Queer)とはもともと不思議な、風変わりな、奇妙なといった言葉だが、LGBTに当てはまらない性的マイノリティーを包括する概念。
LGBTQ+のQ(クイアとクエスチョニングを兼ねている)のことだ。

今野さんのスタンスには共感してばかりだった。
例えばこの文章。

いわゆる映画ファンと呼ばれる人種の中には、いまだに映画は映画館の大きなスクリーンで見るものだとか、映写サイズの縦と横の比率にこだわったりするウルサ型が少なくないらしく、『キネマ旬報』の投稿欄などもそうした投書で相変わらずにぎわっている。木を見て森を見ず、の類ににならなければ良いのだが。

今のサブスク配信時代に今野さんが生きていたら何と言うだろう。
想像はつくけどね。

本書の巻末には今野さんが選んだ外国映画史上ベストテンと
日本映画史上ベストテンが掲載されている。
(1984年 キネマ旬報)

【外国映画史上ベストテン】
01 8 1/2

02 市民ケーン

03 2001年宇宙の旅

04 ブルー・ベルベット

05 ナッシュビル

06 サイコ

07 キャリー

08 勝手にしやがれ

09 タクシードライバー

10 恋する女たち

【日本映画史上ベストテン】
01 羅生門

02 東京物語

03 細雪

04 “エロ事師たち”より人類学入門


05 刺青一代

06 狂った果実

07 憎いあンちくしょう

08 家族ゲーム

09 ヒポクラテスたち

10 ゆきゆきて神軍


『乱れ撃ちシネnote』で採り上げた3作品。

市民ケーン

キャリー

家族ゲーム



「11PM」 1982年9月15日(水)
〜海外おもしろCM特集〜
(今野雄二さん出演)


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