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-映画紹介-『あなたの旅立ち、綴ります』 誰一人あなたのことをよく思っていませんが。

  《乱れ撃ちシネnote vol.76》

『あなたの旅立ち、綴ります』 マーク・ペリントン監督 2019年公開アメリカ

鑑賞日:2023年3月22日 u-next

【Introduction】
図書館から借りた「反=恋愛映画論」の流し読みが終わった。

2人の映画評論家の恋愛映画についての対談をまとめた本だ。
なんでこの本を読んだかと言うと、『花束みたいな恋をした』からサン・ホンスまでという惹句につられたからだ。

サン・ホンスという監督の名前は馴染みがないけれど、『花束みたいな恋をした』はかなり興味深い映画だったからね。
監督は土井裕泰(のぶひろ)。
TVドラマのヒット・メイカーで数多く受賞しているTBSのホープディレクター。
「重版出来!」(2016)や「カルテット」(2017) は面白かった。
映画では『いま、会いにゆきます』(2004)、『涙そうそう』(2006)、『ビリギャル』(2015)など切ない青春ものを描くのがうまい監督だ。
脚本は坂本裕二
TVシリーズ「カルテット」や「大豆田とわ子と三人の元夫」など
おシャレで気の利いた会話を楽しませてくれる脚本家。

『花束みたいな恋をした』は坂元裕二の書いたトリビア満載な会話をパキパキしたテンポで演出して生み出される心地良いビートにのせられて楽しめる作品だった。

「反=恋愛映画論」はキラキラ青春映画のことを語っている。キラキラ青春映画とは高校生青春映画のことを指すらしい。
ぼくが最近観た作品で言うと、
『君に届け』(2010)、『今日、恋をはじめます』(2012)、『僕等がいた』(2012)、『アオハライド』(2014)、『ホットロード』(2014)、『orange-オレンジ-』(2015)、『溺れるナイフ』(2016)、『青空エール』(2016)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)、『ひるなかの流星』(2017)、『先生! 、、、好きになってもいいですか?』(2017)、『君の膵臓をたべたい』(2017)あたりの作品のことだ。
青春胸キュン(死語?)映画ってとこだ。

キラキラ青春映画の代表作が『花束みたいな恋をした』で主演が菅田将暉有村架純。
こんな物語だ。

苦手なのに友達に誘われて飲み会に参加した有森は退屈なので途中で退席する。菅田もやはり飲み会が嫌いなので退席した。
駅に着いたものの終電に乗り遅れてしまった初対面の2人は始発まで時間つぶしにファミレスに入る。

ファミレスの店内に押井守がいることに2人は色めきたつ。
天才押井守がいる!
店内でそのことに盛り上がっているのは2人だけ。
お互いに相手が押井守を知っていることで親近感がわいて「あれ知ってる?じゃあこれ知ってる?」という機銃掃射のようなディープなオタク会話が始まる。
あ〜言えばこう答えるし、じゃああれは知っている?と問いかけると瞬時に返事が返ってくる。
あるある会話で一気に盛り上がるオタクな2人。

まるで合わせ鏡のようにピタッとはまる会話に嬉しくなりその後何回か会ううちに恋人同士となり2人は同棲を始める。
それから別れるまでの5年間の彼等の恋愛模様を描いた作品が『花束みたいな恋をした』だ。

趣味が同じでも生活上の価値観が違えば暮らしてはいけない。
花束はいつか枯れる運命にあるのだ。


何の気無しに観始めたら面白くて最後まで観てしまった。

「反=恋愛映画論」は洋画も含めて近年のキラキラ青春映画を分析、批評しあう本。近年の恋愛映画に今大きな異変が起きているからだ。
LGBTQが市民権を得るようになってきたのでそれを反映して恋愛映画にも異変が起きているってことだ。
恋愛話と言えば今までは男女で完結していたのに、男性と男性、女性と女性、男性と女性など恋愛関係が複雑になってきたので話がややこしく面白くなってきたのだ。

「反=恋愛映画論」の6章と7章にこの本で対談した佐々木敦児玉美月各々が選んだオールタイム・ベスト映画邦画編・洋画編があったので、どんなもんだろうと観始めた。
リスト・アップされているのは全40本だけれどAmazon Prime VideoもしくはU-nextの見放題で配信されている映画に限定して観始めた。

まずは【オールタイム・ベスト恋愛映画日本編】-佐々木敦選-
(✕印は現時点でAmazon Prime VideoとU-nextの見放題に見当たらない作品)

・『乱れ雲』 U-next
✕『悶絶!!どんでん返し』
『ドレミファ娘の血は騒ぐ』U-next
✕『トカレフ』
✕『あなたがすきです、だいすきです』
・『2/デュオ』U-next
✕・『unloved』
・『ともしび』Amazon
・『ある優しき殺人者の記録』U-next
・『れいこいるか』 U-next

『乱れ雲』 成瀬巳喜男監督 1967公開

1967東宝創立35周年記念作品の1本で成瀬巳喜男監督の遺作。
交通事故で夫を亡くした女性と加害者である青年が愛憎入り混じった許されない間柄でありながらも惹かれ合ってゆく姿を描いた作品。
主演:加山雄三、司葉子。

成瀬作品は『浮雲』『放浪記』、『流れる』、『女が階段を上る時』、『乱れる』だけしか観ていないが『驟雨』が面白かった。

『驟雨』は文化住宅に住みながら平々凡々とした毎日を送っている佐野周二と原節子の物語。
倦怠期を迎えた2人には危機が訪れていた。
夫の下品さに幻滅した姪が訪れて離婚すると言い出したり、妻は町で財布を盗まれたり、夫の会社で人員整理の話が出たり、外に出て仕事をしたい妻に夫は反対だったり、夫は一人で実家に帰ると言い出すし、平々凡々な生活の中にも大波小波が押し寄せてくるが・・・。

つつましい文化住宅に住み庭先に訪れる野良犬に餌をあげる原節子の平凡な主婦ぶりがとても魅力的だ。
原節子と言うと小津作品の紀子三部作などが有名だけどぼくは吉村公三郎監督の『安城家の舞踏會』と成瀬監督の『駿雨』の原節子が大好きだ。

原節子は「永遠の処女」というキャッチフレーズで売り出されていたけれどとんでもない。原節子は当時の日本人女性には珍しく豊満でセクシュアルな女性だ。
ノン・フィクション作家の石井妙子が原節子の情報を丹念に調べて書き上げた原節子の自伝「原節子の真実」に、原節子があるインタビューで小津安二郎作品の自分が好きではないと語っていたことを知り、やっぱりね〜と思ったものだ。

『乱れ雲』に描かれた男女の純愛物語はまったく響かなかった。
つまらない作品ではないけれど、だから何なの?な映画なので次の作品を観た。

『ドレミファ娘の血が騒ぐ』 黒沢清監督 1985年公開。
研究対象の少女を発見して、「恥ずかし実験」を行う初老の大学教授の姿を描く。脚本は「神田川淫乱戦争」の黒沢清と万田邦敏の共同執筆。
監督は「神田川淫乱戦争」の黒沢清、撮影も同作の瓜生敏彦がそれぞれ担当。にっかつロマンポルノとして製作された「女子大生・恥ずかしゼミナール」に追加撮影を加え再編集した。(映画.com)より。

ダメだ、この作品も響かない。
60年代によく観た学生の自主制作映画のレベル。
自主制作の映画がつまらないということではない。
大林宣彦監督の『EMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ』(1967)には涙したし、原将人監督の『おかしさに彩られた悲しみのバラード』(1968)にはビックリしたし、森田芳光監督の『ライブ・イン・茅ヶ崎』(1978)には大笑いした。

自主映画であろうとプログラム・ピクチャーであろうとアヴァンギャルドであろうと面白いものは面白い。
40分まで我慢して観たけれど途中下車するしかなかった。
映像に魅力を感じないし吸引力もない。
ただしこの作品でデビューした洞口依子の20歳の頃の映像が見られたのは嬉しかったけど。

次が、
『2/デュオ』諏訪敦彦監督 1997公開
脚本なしで全編役者のアドリブで撮られた作品で一組の恋人の微妙な心模様を描いたドラマ。
監督は「はなされるGANG」で85年度ぴあフィルムフェスティバルに入選した諏訪敦彦。
8度にも渡る推敲を重ねた脚本を捨て、セリフや動きを全て現場で役者の即興芝居に任せた斬新な手法で、初の劇場用映画となるこの作品を完成させた。撮影は「明るい場所」の田村正毅。主演は「FLIRT」の柳愛里と「セラフィムの夜」の西島秀俊。(映画.com)より。
この作品も何も響かないので途中下車。

次が、
『ともしび』 吉田良子監督  2004年公開。

この作品でやっと興味深い映画に出会えた。
映像、女優選び、音楽、全てに監督のセンスの良さを感じる。
分けがわからない映画だけど緩急な映像力で最後まで観られた。
この監督は他にどんな作品を撮っているのだろうという興味が湧くし瀬々敬久監督がシリーズ監修とは何なのだろう。
近いうちに吉田良子監督の『受難』(2013)と『惑星のかけら』(2011)を観てみよう。

次が、
『ある優しき殺人者の記録』 白石晃士監督 2014年公開。
86分をワンカットで撮っているというのが嬉しい。それだけでどんな映画だろうとワクワクする。
映画にとって役者や物語以上に重要なのはどんなスタイルでその物語を語ってくれるのかという監督の語り口だ。
平凡な物語でも語り口だけで一級の作品に仕上がることはスピルバーグ監督のデビュー作『激突』を観れば誰にでも分かる。
監督の語り口とは小説で言えば文体のこと。些細な物語なのに広大な宇宙まで連れていってくれるのは監督の語り口しだいだ。

韓国人ジャーナリスト、キム・ソヨンの元に障害者施設から脱走後、18人を殺害した容疑で指名手配されているパク・サンジュンから連絡が入った。
幼馴染であるソヨンに独占取材させるという。
ただし日本人カメラマンと2人だけで指定の場所に来る事、警察には連絡しない事が条件だった。
指定された廃アパートの一室にやってきた2人に、実は18人ではなく25人殺害しているとサンジュンは証言する。
幼い頃に幼馴染ユンジンの事故の瞬間を撮影してしまったサンジュンは、やがて“神の声”を聞くようになり、その通りにすればユンジンは生き返ると信じ込んでいた。
“声”に導かれるまま、27歳になった時に施設から脱走し、殺人を犯してきたと語る。
ソヨンとカメラマンの田代を呼んだのは、最後の2人の犠牲者が日本人なので言葉が通じる人物が必要だったのと、
殺した27人とユンジンが生き返ることを証明する記録が必要だったためだ。

“神の声”は偶然の産物だと告げるソヨンを退け、部屋にやってきた新婚旅行中の日本人カップルに襲い掛かるサンジュン。
ところが最後の2人の条件だという首元のアザがカップルには無く、ソヨンにあるとわかり戸惑うサンジュンだった。
さらに彼をパニックに陥れる真実が発覚する。

といった陰惨な物語。
前半は面白く観られたけれど中盤以降血なまぐさくなってからは興味半減。

【オールタイム・ベスト恋愛映画日本編】-佐々木敦選-を観終わってぐったり疲れたので《乱れ撃ちシネnote》に手を付けられなかった。
口直しに観たのが以前からマイリストに加えてあった『あなたの旅立ち、綴ります』でこれがヒット。

主演はアマンダ・セイフライド。目玉の大きなファニー・フェイスで小悪魔的魅力の女優さん。
『マンマ・ミーア』(2008)、『レ・ミゼラブル』(2012)、『パパが残した物語』(2015)『Mank/マンク』などに出演している。
主役はこの映画の制作当時83歳のシャーリー・マクレーン

【Story】
わがままで自我を貫き通してビジネスで大成功を収めたハリエット・ローラー(シャーリー・マクレーン)は豊かな老後を送っていたが、ある日、病気で倒れ病院に運ばれる。
退院後に薬を飲みながらワインをこぼし、新聞でワインを拭いていたところその新聞の他人の訃報記事をみて、自らの死とその訃報記事を考えます。

アン・シャーマン(アマンダ・セイフライド)は訃報記事専門の地元の新聞記者。自作を発表するのが夢だ。
ローラーは自分の死亡記事を華々しく書いてもらおうとシャーマンを雇う。

シャーマンが取材に動き回ると元夫を含めローラーの知人で彼女のことをよく言う人は一人もいない。
仕方がないのでシャーマンはローラーの口から自分の人生を語ってもらいそれをもとに訃報記事を書くことにしました。
シャーマンはローラーに20年も音信不通で仲の悪いローラーの娘エリザベス(アン・ヘッシュ)と会うことをすすめる。

シャーマンとローラーはぶつかり合いながらも徐々にお互いの心のうちを見つめることになる。
しかしハリエットの死は思いの外身近に迫っていました。


ええ話やね〜。
冒頭の10分で「この映画は拾い物!」と思わせる作品でした。
シャーリー・マクレーンの新作を観たのは何十年ぶりだろう。何歳になってもチャーミングでユーモラスで魅力的な女優だ。
そしてアマンダ・セイフライドをこれほど印象付ける映画も初めて。
必見ものの作品です。

【Trivia & Topics】
*マクレーンとニューエイジ。
シャーリー・マクレ−ンと言えばジャック・レモンとの『アパートの鍵貸します』とか『あなただけ今晩は』が好きだった。
70年代になってマクレーンがニューエイジの旗手として注目されたのには驚いた。彼女は心霊治療家エドガー・ケイシーの思想や、仏教思想を初めとする東洋文化、霊や宇宙人と交信するというチャネリングなど、ニューエイジを構成する思想に傾倒し広く紹介し始めた。

1983年に出版されて世界的なベストセーとなった『アウト・オン・ア・リム』では自身の体外離脱や神秘体験を語っています。

*セイフライドの結婚。
小悪魔的に多くの男性とウワサのあったセイフライドですが、この作品のDJ役のサドスキーと結婚しました。
セイフライドとサドスキーの交際を陰ながら応援していたというマクレーンは「彼女とトーマスとの恋愛を見ているのはとても素敵だった。早くおなかの中にいる赤ちゃんに会いたいと思っているわ!」と本作の宣伝活動の際にコメントしています。

【5 star rating】
☆☆☆☆

【reputation】
Filmarks:☆☆☆★(3.9)

Amazon:☆☆☆☆

u-next :☆☆☆☆



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