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【日記】下戸戦記

 僕は下戸(げこ:お酒に弱い・お酒が飲めない。対義語は上戸)だ。

 年末からお正月にかけてお酒を飲む機会が増えるが、下戸にとっては戦場である。自分の飲める量を見ながら、付き合いとしてある程度飲みつつ新たに注がれるお酒を避けるという親戚との戦いが始まる。


 僕のお酒耐性は、「アルコール度数3%の350缶(ほろ酔い程度)は酔わずに飲めるが、5%以上になるとベロベロになるし記憶があやふやになる。」である。全く飲めないわけではない。それにお酒自体あまり好きではなく、「コーラサワーを飲むならコーラでよくない?」と思ってしまう。そのためお酒は月に一回飲むか否かというペースで飲んでいる。

 それに、体質的な問題に加えて精神的に問題があることも、お酒が苦手である要因の一つである。

 それは「父親が大酒飲みだった」ということ。
 父親は家でアルコール以外の飲み物を飲んでおらず(仕事用鞄にポケットウィスキーが入っていたので職場でも飲んでいたかもしれない)、暴力こそなかったが酒に酔っては暴言やイライラした態度を取られて毎日ビクビクしながら生活していた。詳しい話は省くが、父親は数年前に病気で急死したため現在は平穏に暮らせている。

 僕は幼い頃から枝豆やチータラなどのおつまみを好んで食べていたため、父親を知る親戚からは「水太郎は将来飲兵衛になるね」「お父さんもお母さんもお酒強いもんね」とよく言われていた。しかし僕自身は「父親のようにはなりたくない」と常に思っていたので、成人して下戸ということが判明しとても嬉しかった。


 僕の親族は毎年、母方の祖父母の家に叔父叔母夫妻と僕の家族が帰省する風習がある。
 しかし今年は弟が大学受験を控えており帰省せずに勉強するとのことで、それの付き添いで母親も帰省しなかった。つまり、僕一人で祖父母の家に行った。僕が成人してからの帰省は2回目で、昨年なんとなく「お酒あんまり飲まないよ〜」ということを示せたと思っていたので何も心配していなかった。

 しかしそこは戦場だった。
 未成年がいないからである。

 昨年までは弟という未成年の存在のおかげで、豪勢なご馳走の中に必ずノンアルコールのジュースやお茶が用意されていたが、今年は参加者が全員成人なのでノンアルどころか水用のコップすら用意されていない。
 第一、年寄りが昨年のことなんて覚えているわけがないのだ。

 帰省初日の大晦日は何も感じずにワイン2杯(勝手に2杯目を注がれた)をちびちび飲んでやり過ごしていた。(普段全くお酒を飲まないので、ワインのアルコール度数がバカ高いことをすっかり忘れていた。)

 流石に翌日の元旦には違和感に気づいた。水かお茶を飲みたいけどなくね?というか注がれる量多くね?
 朝から晩まで毎食お酒を出されるので、流石に「あんまりお酒強くないからいらない」と伝えたが、親戚たちには「一杯だけだから」とか「小さい頃から飲兵衛になるって言われてたくらいだから大丈夫だって」とか「最初のうちはそんなもんだよ」とか言われて必ず毎食一杯は飲まされていた。

 出されたものは必ず食べ/飲み切らなければいけない、という精神が植え付けられているため、出された一杯の酒は必ず飲み干す。早く飲み切ってしまうと「コップが空いてるじゃねえか」と祖父に酒を注がれるため、食べ終わる頃ちょうど飲み切るようにタイミングと戦いながら飲んでいた。
 まさに戦場である。

 食器の準備をする際にしれっと自分用にコップを追加で用意し、生茶の2Lペットボトルを席の後ろに置き、お酒のコップは祖父から遠い場所に置いた。
 努力したものの、「毎食一杯」以下にはならなかった。(それでも大晦日に比べるとマシではあるが)


 1月2日、駅伝を見ながら朝からビールを飲まされたが「夕方には帰るから我慢しよう」と思った矢先だった。なんか体調が悪い気がする。頭痛いし気持ち悪いしめまいもする。流行り病だったらまずいなと思いつつも、特に感染に心当たりがないから違う気もする。

 尋常じゃない気持ち悪さと吐き気でトイレに篭りながらやっとわかった。


 僕は戦に負けたんだ……。


 二日酔いなのか三日酔いなのかわからないが、体内にあるアルコールを出さないとどうしようもないと思い、生茶2Lペットボトル(3日間で3本目)を飲み干すように意識的に水分を摂っていたらカフェインで頻尿になった。これはこれできつい。

 駅伝のサッポロビールのCMに「アルコールなんてクソくらえ……」という感情を覚えながらこたつで寝込み、お茶を飲み、トイレに行く、という地獄のような数時間を過ごし、祖父母のタイミングの良い夕方にやっと帰路に着いた。田舎なので祖父か祖母の車の送迎がないと駅まで行けないのである。(ちなみに叔父叔母夫妻は車で帰った)


 この3日間で半年分くらいのお酒を飲んだので、もうしばらくお酒は十分だ。見たくもない。

 今年の抱負は「アルコールを断れるくらいのコミュ力を身につける」にしよう。そう強く決意した3日間だった。

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