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同人アンソロのデザインをしたよ【装丁編】

 「(キャラ名)がひたすら電車に乗るだけの本がほしい」「作るなら寄稿するよぉ❤️」そんな会話をした1分後には5ヶ月後のWEBオンリーでアンソロを発行することが決定し、翌日には専用ロゴを冠したTwitterの主催アカウントが生まれ執筆者募集が始まりました。フッ軽オタクって楽しいな〜〜!!

 これはそんな立板に水オタク達が、カップリング無し全年齢・特定キャラ特定シチュエーションの二次創作アンソロジーを作るまでのお話……の、デザイン周りを担当した人間による装丁の備忘録です。

 主催氏による記事はこちら。

 ※実在人物をキャラクター化したゲームの二次創作同人誌の話です。ゲーム公式や、元になった史実人物とは無関係の非公式ファン活動であることをご了承の上でお読みください。


ワタシイラレチョットデキル。

 もともと主催氏(字書き)と私(字書き)とあと2人の友達(字書き・絵描き)でオタク話をえんえんとするLINEグループを作っていて、アンソロの打ち合わせも主にそこで進めました。副主催がどうのと決めたわけではないのですが、実質イツメンで立ち上げて回していった形です(表紙イラストも絵描きのメンバーにお願いしました)。

 私はまったく絵を描かない人間ですが、2、3年前に縁あってAdobe CCを契約し、ちょこちょことIllustratorを使うようになりました。仕事はデザイン関係ではないので、ただひたすら趣味で推し作家の作品を布教するペーパーを作ったり推し作品モチーフのしおりを作ったりのオタク活動に使用している、デザイン一年生です(リンク先は別アカ)。

 2022年はたまたま友達の同人誌のお手伝いをする機会が続いて、人物紹介ページや中扉などを作成しました。やるほどに出来ることが増えていく実感があって、オッ、私なかなかやれるんじゃん……と自信が付いていたところにアンソロの話。しかもテーマは最推しキャラの大好きな題材。そりゃあやるっきゃないでしょう。

 というわけで、小説の寄稿だけでなく、デザイン周りをあれこれお手伝いすることになりました。イツメン中唯一の絵描きメンバーは、仕事スケジュールとの兼ね合いで表紙全てだと無理そうだけど、人物イラストだけなら大丈夫とのこと。

 よし、じゃあキャラ絵を描いてもらったら、後は私がデザインするよ!主催氏もどんな表紙にしたいかアイデアあったら教えてね!と話を進めたところ、こう言われたのです。

 「表紙はビッ●カメラ風にしたい」と。


俺が、俺たちがビッ●カメラだ!

 すみませんちょっと盛りました。さすがにそんな面白い言い方はしてなかったです。
 当時のLINEトークを確認すると、主催氏曰く「イメージはあるんですよ」「帽子押さえて鞄持った(キャラ名)センターで」「メタル用紙に白押さえ」「背景は路線図かビッ●カメラ風駅名列挙」

 ……いや言ってたわ。まあまあその通りだったわ。
 ともあれ、立ち上げ初日に既に、主催氏にはかなりしっかりとした装丁イメージがあったわけです。

 私は無からデザインをひねり出すのは苦手ですが、お題を与えられたらどうにかなるタイプ。ここまでちゃんとした土台を作ってもらえたら、後は発展させるだけ。

 主催氏はこの時、説明用の表紙画イメージも描いてくれました。

主催氏(字書き)による表紙イメージラフ

 それを……こうじゃ!!

私(字書き)の装丁イメージラフ

 字が汚くてすみません。
 これで……伝わるか……?と半信半疑でしたが、なんかめちゃくちゃ褒めてもらってテンション上がりました。褒められるとどんどん頑張る性質なのでありがたい。

 いやだからビッ●カメラ風ってなんだよ!!と置いてけぼりの方がいたら申し訳ないので、参考サイトを貼っておきます。こういう感じです。

 https://dailyportalz.jp/kiji/170814200407


試し刷り原稿作成RTA(タイム:4h)

 そんなこんなで執筆者募集を告知して回ったり、いろいろしているうちに素晴らしい原稿が出揃いました。表紙用のキャラクターイラストも最高オブ最高に仕上げて頂いて、さあ、後は三週間くらいかけてデザインを完成させるだけ!小説原稿やってたからまだぜんぜんなんにも進めてないけど、時間はあるから大丈夫だよね!

 というフリからの↑見出しの通り、四時間で無から入稿データを作成するはめになるわけです。 

 いや〜〜死ぬかと思った。間違いなくこのアンソロ作業で一番の修羅場でした。

 なぜそんなことになったのか。話は私の手元にプリントオンさんの特殊紙見本帳が届いたところから始まります。
 今回の表紙は「現代の電車の車両をイメージして、メタルペーパーを使う」ことが最初から決まっていたので、プリントオンさんのメタルペーパーセットの用紙を実際に確かめるべく、遅まきながら特殊紙見本帳を購入したのです。

 で、実物を見たら、そりゃあもうピッカピカで鏡のごとく映り返すわけですよ。

プリントオンさんの特殊紙見本帳より、メタルペーパー

 うーーん、もうちょっとツヤ消しが欲しいような……だって電車の車両って、鏡のようにこっちの顔が映り込んだりはしないし……。

 プリントオンさんのメタルペーパーセットでは、その他にもいろんなメタル用紙が選べるのですが、そっちは見本帳に入ってない。メタルペーパーエンボスあられはあるけど、電車イメージだとあられではないな……というのはわかる。

 「なんか……こう、線が入ってる感じの……」と、LINEでうんうん唸っていたら、絵描きのメンバーが「ヘアライン」という概念を教えてくれました。曰く、細かい線を画像として印刷することで、疑似的に走行線のツヤ消し風になるのではないか。

 「わかったような……わからないような……」状態の私に、絵描き氏は簡易的な「ヘアライン」データを作ってくれたり、かなり細かい線になるので……と、印刷所に問い合わせをしたりしてくれました。

作ってもらった擬似ヘアライン

 問い合わせの結果、印刷としては問題ない(あくまでこの時はの回答です)ものの、ヘアライン加工が思ったような効果を出すかは、実際に試し刷りなどしてみないとわかりませんとのこと。そりゃそうだ。

 試し刷り……試し刷りなあ……。ギリギリ人生なので一回もやったことないわ……。

 しかし今回は、締め切りまでまだ余裕がある。試し刷りの刷り上がりを待ってからデータを作り始めるのではなく、試し刷り入稿→刷り上がりが届くまでの間もコツコツとデータを作っていれば、最終調整の部分は試し刷りを見て変更なり修正なりが出来るのではないか?

 私「やってみるか……試し刷り! 日程はどう?」
主催「明日の昼12時が締切になるね」
 私「無理です!!!!諦めます!!!!(この時点で平日の夜11時、翌日仕事)」

 無理だよ……(むりです)。その日も仕事の後に3時間くらい作業した上での23時ですからね。むり。

 諦めてその日は寝たんですが、やっぱりどうしてもぶっつけ本番で「メタルペーパーに印刷で擬似ヘアライン」をやる勇気がない。何としてでもお試ししてみないことには……。

 というわけで、諦めた晩の翌昼に「この日程でもなんとか間に合いそう」な「今日、仕事が終わって夜にデータを作成して入稿(明日昼締切)」に挑戦することが決まったのです。

やけくそ開始宣言

 繰り返しますが、この時点で何ひとつ表紙データを作っていません。頂いたメインのイラストがあるのと、かろうじて印刷所のテンプレートをダウンロードしていたくらい。でも今夜中に入稿できるものを作らなきゃいけないんだ、明日も仕事だから。いくらギリギリ人生でもこんなの初めてだよ。

 とはいえ、あくまでも試し刷り。本番ではないのだから、未完成上等!いくら失敗しても問題なし!むしろやってはいけないことがわかるから、どんどん実験してしまえー!のノリで、ぽんぽん色を載せていきます。

 失敗してもいいと思うと、気が楽だし楽しいですね。そうこうしているうちに夜11時半、なんとかカラーデータと白押さえデータが出来上がりました(そう、二版要るんですよ……)。

 な、なんとかなった……!と思うのはまだ早かった。私はモノクロPDF入稿の経験はありますが、カラーのPSD(Photoshop形式)での入稿は初めて。それもイラストデータをPSDでもらい、そのほかのデータはIllustratorで作成、最終的にはPSDにして……という流れをここに来て初めてやるわけですから、すんなり行くはずもない。

 私も……アンソロに備えてこういう本を買って、しっかり読んで入稿するぞ!(フンスフンス!)と張り切ってたんですが……まともに読み始める前にRTAが始まってしまい……(読んでおけよ……)。この時ぴーぴー涙目で騒いでいたことは、ほとんど上記の本に載ってました。お役立ち……。

 しかしこの時はギリギリの状態で本を引く余裕もなく、グループLINEで助けを求めながら走りました。 

 私「ICCプロファイルって埋めますか!?」
 友「埋めます!!」

 友「データはRGBで作って、Photoshopでカラープロファイル変換した方がきれいに出来ますよ」
 私「そうなの!?(CMYKで作ってた)」

 私「エーン解像度高いのにしてるのになんか書出したPSDが小さい ぜんぜんわからんなにこれ(限界)」
 友「アッ……もしかして!」

半泣きで友達に教えを乞うた時のスクショ

 私「ここ「高解像度」じゃなくて「その他」で手入力するってことォ!!!????!!?!」(素人)

 すごいデカい声出そうになった。いや解像度350dpiってのはさんざん説明に書かれてたし、覚えてたつもりなんですが、「高解像度」って書いてるから……騙された……(騙してない)。

 そんな素人丸出しの状態で、心強い伴走を受けながらなんとかほうほうの体で入稿データを完成させました。

試し刷りカラーデータ

 人物イラストが最高だから、背景が何でも素敵に見えてしまうな……。でもよく見ればわかる通り、かなり適当な実験場です。
 メタルペーパーに水彩ブラシの色を載せるとどうなるのか、スタンプ風のかすれはどうか……などなど、好き勝手に素材を乗せて、あとは使いそうな色をラインにして並べました。

 背表紙の文字が腕の下になっているのに気がついた途端、「ミスってますがもういいです!!」と叫んでました。試し刷りは間違えるところだ。教室は間違えるところだ。そもそも線路の枕木も間隔がガタガタだぞ。本番では直しました。

試し刷り白印刷データ

 白版データもミスってたけど、もう限界だったので主催氏に直してもらいました……。文字の一部だけ白版にしたり、ラインの半分だけ白押さえにしたり、駅名標の外側をグラデでぼかしたら、果たしてそこが暗くなってくれるのか……の実験をしたり。

 実はこの入稿後に事件が起きるんですが、それはまた後で。

 さて規定の日数経過後、プリントオンさんから試し刷りが届きました!(我が家に直接郵送にしてもらった。レターパック発送でした)

メタルペーパー試し刷り
試し刷り表紙部分(背景に自力ヘアライン)
試し刷り裏表紙

 ぴっっっかぴかだあ……!!!
 そして印刷がめちゃくちゃきれい。白押さえをした人物の肌、美しい〜〜!白押さえなしで色を載せた部分もいい感じに透けてきれーーい!!

 メタルペーパーは完全に初めてだったので不安だったのですが、びっくりするほど綺麗で素敵でした。こんな適当なデザインでも思いのほかよく見える……!

 難点としてはやはり、鏡のごとくな映り込みでしょうか。写真撮るのも難しかった。普通はメタルペーパーの地をこんなに広くそのまま使うことはないんでしょうが、鏡としてもふつうに使えるな……ってレベルです。もうこのぴっかぴかの試し刷りが部屋にあるだけで目立ってて面白い。常に目につく。

 自力ヘアラインも、角度によってはそれっぽく見えるんですが……他の角度ではやはりただの「銀ピカに線を引いたもの」に見えるので、色や濃度の調整はするにしてもなかなか難しいのかなと思いました。

 さて、話は戻って試し刷り入稿の数日後(まだ試し刷りが届く前)。プリントオンさんがこんなお知らせをツイートしました。

 このタイミングでェ!?!?!??

 
もうみんなで「こんなことある!?!?!??」ですよ。数日前に初めて聞いたヘアラインとかいう用語がそのまんま使われた紙、しかも(縦じゃなくて横線が良かったとは思いつつも)電車の車両を再現したいというイメージにぴったりじゃないですか。もうこれでええやないか。

 というわけで、試し刷りの到着を待たずして、表紙はメタルペーパーヘアライン使用に決まりました。
 印刷所の人も、自力ヘアラインの問い合わせ受けた時、このこと言いたくてしょうがなかったでしょ……「あるよ!!」って言いたかったでしょ……プリントオンさん愛してます。


終わらない白押さえと背景調整

 未知の世界だったメタルペーパーを試し刷りでお試し出来たことにより、不安は払拭。さあ、あとはずんずん進むだけ!というわけで、主に裏表紙に配置するモチーフをIllustratorで作り始めました。

駅によくある時計モチーフ(右が白押さえ版)

 白押さえを最後いっぺんに作ると死ぬな……と予感したので、モチーフをひとつ作るごとに、白押さえも作っておきます。(ちなみにこの時計の分の刻みは適当なので合ってません)

新幹線アイコンはフリー素材(シルエットAC)を使用しました

 ちまちま……

今はなき食堂車のマーク
駅スタンプ風(パーツはフリー素材)

 ちま……ちま……こういうのが楽しいんだよなあ!
 鉄道関連は味のあるモチーフが多いので、あれにしようかな、これも入れようかなと日々考えては参考にしていました。

 ただ、現行で使われているものは商標登録されている場合が多く、商標権検索で出てきたものはアレンジして別物にしたり、諦めてまるっと避けたり。

 例えばグリーン車のマークなんて真似しやすくて即作れたんですが、商標登録されているので没にしました。↑の新幹線アイコンは、今は使われていない(登録されていない)ものなのでOK(現行のものは車種が新しくなっています)。みどりの窓口マークは思いきりアレンジして別物にしました。

 商標登録にも「どのような使い方がNGなのか」がいろいろあって、この登録なら、同人誌の裏表紙の一部に載せるのはまあ行けるか……?と悩んだものもあったのですが、危ない橋は渡らないにこしたことはありませんからね。もちろん個人誌でもですが、ましてや人様の原稿を預かっているアンソロ本ですから。

 また、モチーフに使用しているフリーフォントで、同人誌での使用がOKかわからないものがあったのですが、主催氏が問い合わせしてくれてOKになりました。結構使ったので助かります。

パーツを配置した裏表紙

 だんだん集まってきたところで、下に金属風の色を敷いて参考にしつつ、モチーフを配置していきます。
 そこに駅名をドン!!

ビッ⚫️カメ風?に駅名等を流し込んだもの
調整前の裏表紙データ

 暫定「こういう感じ!」の画ができました。
 まあ、ここからが長かったんですが……。

 ↑の背景文字は、モチーフに回り込みをマイナス数値で設定して食い込ませているのですが、やっぱりちょっとガタガタなのが気になる。というわけで、回り込みなしで全面に流し込み、その上にモチーフを被せる形にしました。

 そうすると、綺麗にはなるんですが、モチーフに隠れて見えないワードが出てくるんですよね。
 背景に流し込んでいるワードは、寄稿頂いた皆様の作品に出てくる駅名やキーワードと、それにプラスしてゲーム設定ならではの単語などを散りばめました。

 何周もさせているので、同じ言葉が少なくとも3、4回は出てくるはずなのですが……何故かことごとく裏に隠れてひとつも見えないワードがある。それも複数。

 アンソロは公平性が大事!なので、「私のだけひとつも入ってない……」などということがあってはいけません。なんとかして全員のキーワードが表に見えるよう、ちま……ちま……と入れ替えを繰り返します。 

 時には印刷して丸つけをして、ちま……ちま……。あっまたズレた!あっここは上下で同じ駅名が並んでる!という調整に付け加えて、最初と最後はこのキーワードがいい〜などと思いつきで決めたり、中央にコンセプトが来るよう配置したり……と、諸々の微修正と戦っていると、時間があっという間に溶ける溶ける。

完成版の仕上がり見本裏表紙データ

 最終的に「こ、これで勘弁したらぁ!」と完成させました。作ってしばらくは、どの駅名を挙げられても「ここ!」とゴー⭐︎ジャス並みに答えられる自信があった。

入稿したカラー印刷データのスクショ
白印刷データ

 試し刷りで「なんかのっぺりしてる……」と不満だったタイトル部分の駅名標も、枠などつけて満足するまで手を入れつつ。
 白印刷にもこまごまと「こういう風に出たらいいな〜」というギミックを仕込みました。

 そしてほとんどの初心者ミスは試し刷りの時にやり終えたので、今度はスムーズに入稿データを完成させられました!!何事も経験です。


本が刷り上がったぞ!!

 そしてとうとう、実際に本が刷り上がりました!

完成したアンソロの表紙

 で、電車だこれーーーー!!!!!!!
 すごい、そうなることを見越して選んだメタルペーパーヘアラインとデザインなんですが、思ってたのの何倍もマジのマジで「電車だ!!!!!」となる。紙の力すごい。

アンソロ裏表紙

 裏表紙もあわせて見た目がものすごく「金属」で、ずっしり重そうなのに実際に手にすると紙の軽さしかないので混乱します。そんな感想になるとは思わなかった。メタルペーパーってすごい。

裏表紙モチーフ

 裏表紙のモチーフに仕込んだ白押さえギミックで思い通りの効果が出ているか、勝率は8割ってところですかね!

 たとえば信号は「白押さえした青が明るく出て、白押さえしてない赤と黄色は暗くなるはず……」と思ってたんですが、白押さえしてても青(緑)そのものがそんなに明るくないのでそれっぽくならなかった感じ。でもきれいだから全然オッケー……!(小手先の技など些事よ)

 右下にある大阪の駅名標はいい感じに白押さえをぼかした両端が自然に暗くなってくれましたね。これは成功。

 いやーーーーしかしすごい。すごいのに目に見えているすごさが写真で伝わってくれなくてもどかしい。実物はもっと光ってるんですよ!買わなくてもいいので見るだけみんな見てってくれ!!という気持ちですね。オンラインイベントでの頒布なので実際には並べられないのですが……。

 もちろん中身も最高で、この素晴らしいアンソロジーを上手いことデザインできて良かったなぁとしみじみしています。大勝利アンソロジーだ……。

 参加イベントは終わりましたが、アンソロは引き続きBOOTHで頒布しております。

 印刷してくださったプリントオン様、主催氏並びに参加者の皆皆様、本当にありがとうございました!!