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トレペ表紙の同人誌で試行錯誤した話。

 この度、お友だちの小説同人誌の表紙デザインを担当させて頂きました! プリントオンさんのシースルーセットを使った、トレーシングペーパー表紙の本です。

あんこう様の小説同人誌「砂糖菓子の罪と嘘つきの罰」

A5判同人誌
表紙:トレーシングペーパー58kg(無地)・フルカラー印刷
フルカラー口絵(片面印刷/グロスファインペーパー)
遊び紙(後):色上質紙 黒
製本方法:無線綴じ製本

プリントオン シースルーセット
表紙を少し持ち上げたところ

 表紙のトレーシングペーパーには、作中アイテムであるこんぺいとうの線画と、飾り枠や帯テクスチャをあしらっています。

カラー口絵

 表紙をめくると、こんぺいとうの中身が塗られたカラー口絵が。本文の内容にリンクしたこの仕様をするために、トレーシングペーパー表紙のセットを選びました(あんこうさんが)。

 いやあ、装丁の仕様が本文の内容とリンクした本って、いいものですね……。あんこうさんからはシースルーセットを使うことと、線画とカラー口絵の仕組みと雰囲気の方向性を指定して頂き、こんぺいとうのイラストは、はーせさんに依頼しました。

 しかしトレーシングペーパー表紙の本、同人誌では割とよくあるようでいて、ネット上での作例があまり多くなくてですね。他の印刷所さんのブログに数件あったくらい……(読んでいてとても助かりました!)。

 トレーシングペーパー「カバー」の本はいろいろ出てくるんですよね。または、トレペ表紙でも、中綴じ本はカバーと似たような作りで理解できる。

 でも、トレーシングペーパー「表紙」で「無線綴じ」だとまた違ってくるんだよなあ〜〜!! ……ということをつくづく実感したので、今後トレペ表紙無線綴じ本を作る方のために、参考までにレポを残しておきます。いやあ、勉強になった……罠が多かった……。

 ※原作その他オフィシャル団体とは無関係の二次創作BL本です。以下、具体的な本文やキャラクター画像などは出てきませんが、カップリング名は画像中に出ています。

【罠1】背の部分は気を付けないとノリが透ける

 これはプリントオンさんのシースルーセットのページにも再三書いてある注意点です。

 表紙が透ける素材+無線綴じだと、本体の背を綴じた糊の部分が透けて見えてしまうんですね。プリントオンさんのページにもありますが、表紙トレペの背のあたりに色や模様を付けることで目立たなくなります。

 依頼と同時に注意ポイントとして教えてもらっていたので、今回はデザインを考える際に考慮することができました。

 とはいえ結構、背のあたりが淡い色の部分もあるんですが、刷り上がった本を見る限り、本体背の糊は(そう、本体の糊は……※後述)特に目立ってはいません。

 糊の部分は薄い黄色なので、トレペに載せる色が緑だと(反対色だから?)透けやすい……というのは、他の本の実例で教わったので、参考までに記しておきます。

【罠2】本文最終ページも透ける(奥付が見える)

 これはうっかり気づかないままやらかすところでした。

 トレペ表紙の作例を探す中で、サンライズさんの作品紹介ブログにたどり着いたのですが、その中で、トレペに透けがちな奥付を印刷したイラストで上手く隠している本が紹介されていたんですよね。

 …………あっ! そうか本文最終ページも透けるんだ!??(気付き)

 
表1-4がトレペなので、そうなるんですよね。なかなかそこが透ける本って感覚がなかったので盲点でした。

 別に奥付は本文最終ページに置かなくてもいいわけですが、気づいた時には既に本文原稿も、表紙デザインも出来上がっていたので、追加料金で遊び紙を後ろに入れることで対処しました。

裏表紙をめくると、後ろ遊び紙(色上質黒)
裏表紙を閉じたところ

 下の黒が透けて影響するかな〜と思ったんですが(キャラカラーでもあるのでそれはそれでいいかと思って)、あんまり目立ちはしませんでしたね。

【罠3】トレペ越しのカラー口絵は淡く見える

 当然といえば当然なんですが、最初気づかず入稿するところでした。あぶなかった。

表1完成イメージ画像

 完成イメージとして作った、版を分ける前のデザインはこちら。こんぺいとうの線画と、金枠、タイトル、赤い帯だけをトレペ上に印刷して、残りの背景とこんぺいとうの中はカラー口絵になります。全体的にちょっと淡い雰囲気。

初めに作っていた口絵データ

 さて分版データとして、背景とこんぺいとうの色塗り部分だけをカラー口絵にもっていって……というところで気がつきました。いや、この上にさらにトレペ(半透明白)を重ねたのが完成図になるんじゃん。
 
 完成イメージで作ったデータがそもそも淡めの色合いなのに、さらにトレーシングペーパーを重ねるとなると……だ、駄目だ! 薄すぎてほとんど何にも見えなくなる!!

口絵の入稿データスクショ

 というわけで、心の許容範囲ギリギリまで彩度を上げていじくりました(こんぺいとうを描いてくださった、はーせさんの承諾済)。

 しかし比べてみると、そこまで明るくいじれてませんね……どこまで彩度を上げればいいのか、そもそも単品としてもカラー口絵で鑑賞するものなので、不自然に明るくてもおかしいし……と悩んでこうなりました。どのくらい透けるのか、ほんとに手探りでしたね……(一応、紙見本のトレペをプリントアウトした紙にあててみたりはしたんですが、確信できるほどの情報は得られなかった……)

刷り上がった表紙

 そして出来上がったものがこちら。うーん! 一応、見えてはいる!(及第点)

 やっぱりもうちょっと明るくすれば良かったか……とも思うのですが、実物を手にしてみると、か、かわいい……! 素敵……!! という感情があふれてむやみに高得点をつけたくなるので、大丈夫大丈夫。トレペ表紙の本、実物はほんと可愛いし素敵です。写真では伝わらない良さがある。

 他の部分はともかく、こんぺいとうはそもそもの色が黒なので、どう調整してもこのくらいが限界だったかもしれませんね。こんぺいとうの色は本文の内容上、これでなくてはならなかったので……。

【罠4】分版データ作成で苦労した

表1-4完成イメージ

 頂いたこんぺいとうの絵と、有料素材を駆使してなんとか完成イメージのデータを作りました。

 あとはこれを、トレペに印刷する版と、カラー口絵の版にわけるだけ……まあ、レイヤー分ければいいだけなんだから、ちゃちゃっと出来るだろう。……と思っていたんですが、そうはいかなかったんですよね。

 初めに想定して作った分版データがこちら。

トレペ表紙データ(仮)
その下(?)のデータ(??)

 そう、実際のところ、こうはならんのだよなあ……。

 表1(表表紙)はカラー口絵+トレペ印刷なのでこれでいいんですが、表4(裏表紙)の下にはカラー印刷がないんですよ。本文最終ページがあるだけなので……。なんなら遊び紙をつけたので、黒い帯の下に黒い色上質紙が透けるだけの裏表紙になってしまう。

 つまり、表4(裏表紙)には、カラー口絵と同じ背景の星空カラーを載せないといけないわけですね。
 しかし同じ彩度で作ってしまうと、そのままトレペ上に印刷している裏表紙側ははっきりくっきり色が載り、トレペ越しにカラー口絵を透かせる仕様の表紙側は、薄ぼんやりとしか色が見えない。つまり表1と表4で色の差が出てしまう

 ど、どうする……?
 と考えはしたものの、どうしようもないな……と悟り、ある程度は運を天に任せました。イベントで表紙と裏表紙を並べて頒布するとかじゃない限り、気にならないだろうし……。

 ただ、背表紙の部分でぱっきり色分けしてしまうと事故るな! と思ったので、表4から表1にかけてはグラデでぼかしてふんわり境界をつけています。表1の端にもすこし色がかかるようにしました。

入稿したトレペ印刷データのスクショ

 結果として、この点については全然気にならない仕上がりでほっとしたのですが、実際に完成した本(の写真)を見るまでは、まーーーーじで心臓に悪かったです。できあがるまでわからない博打だった……。

【罠5】背表紙付近は下の色がくっきりと出る

背表紙付近に出た線

 これは本が出来上がって初めて気づいたポイントです。

 はじめは、なんでここくっきりした線が出たんだろうな~無線綴じの糊とも違うみたいだし……と不思議に思っていたんですが、たぶん、これ、製本の都合上トレペを本体にしっかり吸着させるので、そこだけ下の色がよく出ているんですね(※印刷所に問い合わせたわけではないので想像です)。

 特に裏表紙の方は、下にあるのが色上質の黒なので、よりくっきりと線が出てしまっているわけです。

 これはトレペ表紙側にしっかりと色が載っていれば(下の色より濃ければ)おそらく出ないんじゃないかな~と思います。実際、同じセットで以前に作った他の本では出ていませんでしたし。

 いろいろ考えて試行錯誤しても、やはり実際にできあがるまでわからないことが多い……。でも写真だと目立ちますが、実物を手に取ったときはそんなに気にならなかったので、ちょっとホッとしました。

【おまけ】データ作成時のあれこれ

 今回の表紙は、こんぺいとうのイラストをはーせさんに描いていただいた他、BOOTHで販売されているてんぱるさんの素材を複数種重ねて使用しています。

 今回初めて使わせて頂いたんですが、いやあ、同人誌用に作られた素材データって、使いやすいですね……。しみじみ感激しました。サイズも解像度も丁度いい、利用範囲もセーフティ。もうね、バシッとハマるんですよ……ありがたい。

 「同人誌に使うのは商用利用に含むのか?」「R18本に使ってもOKなのか?」というポイントの安全性が初めから保証されているのは本当に助かりました。フリー素材だとR18はダメなものも多いので……。

 また、てんぱるさんの素材はWEB用解像度版がPixivにアップされているので、まずはそちらを使って低解像度でイメージデータを作ってみて、よし、この素材とこの素材で行こう! と決定してから、印刷用解像度の販売データを購入することができて、大変助かりました。素材、買ってダウンロードしてみないと上手くハマるかどうかわからないものも多いですからね。

 ただし本番用の高解像度データに差し替える際、WEB解像度のままのものが気づかず残っていたら事故になるので、素材がWEB用と印刷用で混ざらないようフォルダ分けしたり……と、気をつけて作業しました。

 そして今回は、BOOTHに実装された「ギフトとして贈る」機能であんこうさんから直接素材を贈ってもらいました。ものすごく便利だった。

 例えばあんこうさんが素材を買って、そのデータを私に送るのは規約違反になりますし、私がデータを買って、かかった費用を請求するのも面倒です。私は友達のデザインを手伝う時は物でお礼をもらうことにしているので、金銭のやり取りをあまりしたくないんですよね。

 それがギフト機能なら、素材のダウンロード権を贈ってもらう形になるし、受け取るのもダウンロードURLを貰うだけなので簡単でした。ギフティみたいな感じです。

 あとは、タイトル文字もあんこうさん本人に書いてもらいましたね。
 手書きっぽいフォントで……ということだったんですが、フリーだと漢字のないものが多いし、漢字があるものでも、出なさそうな字がある……というわけで、何パターンか書いてもらい、コンビニでスキャンしたPDFデータを頂きました。

タイトル作成過程

 あとはイラレでベクター化し、助詞のサイズを小さくしたり、文字間を調整してシアーで斜めにした後、購入した金素材をテクスチャとして重ねて完成。トレペ上の方は色を変えていますが、口絵にはこのままの金を使いました。

 ちょうど買ったばかりのこの本に、上記のやり方が書いてあったのでとても助かりました。前回の記事(↓)で紹介した時の「マジで助けられた」というのはこれだったわけです。感謝。

 今回の表紙データは、タイトル文字以外はほとんどPhotoshopで作成しました。フォトショはあんまり使い慣れていないので心配だったんですが、クリッピングと色調整だけでやり切れたのでよかったです。同人誌表紙データを作る上でのPhotoshopの使い方も、いろいろと勉強していきたいなー。