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母と娘とぬいぐるみ

母が認知症で寝たきりの状態だ。


いつも身なりを整えていて小綺麗にしていた人だった。小さい子どもが大好きでスーパーでもニコニコ話し掛けてしまう人だった。

「いい子だね。可愛いね。美人さんだね。」と孫(私の娘)に言っていた。優しく髪の毛を撫でながら。

そんな母が少しずつ壊れていった。


何度もご飯を炊いてしまうようになった。だから炊飯器を隠した。


捨てたはずの洋服が翌日にはゴミ袋から出され、キレイに畳まれ、タンスに戻っていた。私は「やめてよ。何度言えば解るの?」と怒っていた。

「財布がない。お前が盗んだんだろう。」と言うようになった。悔しくて実家には近寄らないようになった。

でも、今は、そんな憎らしい言葉も発しなくなった。
ずっと天井を見ている母は、一体、何を考えているんだろう?表情が無い母の心の中が解らないんだよね。


音が鳴るぬいぐるみが介護ベット傍のテーブルに置いてある。
母と一緒に暮らし、介護をしている私の兄が用意したものだ。

「おばあちゃん、これ鳴らしてみる?鼻を押すと音楽が流れるよ」娘が母に言う。


~♪ 幸せなら手をたたこう~ ♬~

とぼけたような音に合わせて私と娘で歌う。すると母は手をたたこうとする。そして歌が終わると母は自分の手のひらを娘の頬へ当ててそっと撫でる。

やっぱり言葉はない。

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