現代語訳「玉水物語」(その六)

 紅葉合わせの当日、参加した人々は心を尽くして歌を詠み、美しい色の枝を用意したが、いずれも姫君のものには到底及ばず、五度の合わせはすべて姫君が勝った。
 この話は世の噂になってやがて帝の耳にも入り、紅葉を奉呈《ほうてい》するようにと仰せがあった。惜しいことではないのですぐに献上したところ、帝は枝ぶりと歌の見事さに感動した。
「その姫君をすぐに参上させるように」
 命じられた時の関白は帝に進言した。
「宮仕えさせるのは間違いなく喜ばしい話ではありますが、高柳《たかやなぎ》宰相《さいしょう》はみすぼらしい屋敷に住んでいますので、このまま姫君を出仕《しゅっし》させるのは難しいかと」
 確かにその通りだと思った帝は、宰相に褒美として三箇所の土地を与えた。長年、望んでいた話だったので宰相は大喜びし、すぐに姫君の参内《さんだい》の支度を万全に調えた。
 宰相は玉水にとても感謝し、津国《つのくに》のかく田という土地を養父に分け与えようとしたが、玉水は固辞した。
「わたしは無縁の身ですので、情けを掛けていただいていることがただ嬉しいだけです。そのようなことは、まったく思いも寄りません」
 だが、度重なる申し出を断り切れず、結局、褒美を受けることになり、養父と養母は並々ならず喜んだ。
(続く)

【 原文 】 http://www.j-texts.com/chusei/tama.html


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