『玉水物語』長歌欠損部分の補完

『玉水物語』の現代語訳にあたり、底本は京都大学附属図書館所蔵本とし、原文で欠損している箇所はできるだけ違和感がないように努めました。

ただ、長歌の後半に長めの欠損箇所があって気になっていたところ、先日に入手した書籍(『室町時代物語大成』第八巻)により、別の写本で補完できることが分かりましたのでお知らせします。

色に出て 言はぬ思ひの 哀《あは》れをも
此《こ》の言の葉に 思ひ知らなむ
■ 欠損箇所 ■
濁りなき世に 君を守らむ

上記の欠損箇所を補完して訳すと、下記のようになります。

色に出て 言はぬ思ひの 哀《あは》れをも
(面と向かって伝えることのできなかった切ない思いも、)

此《こ》の言の葉に 思ひ知らなむ
(ここに綴《つづ》った言葉でお分かりいただけるかと思います。)

漏《も》れ出《い》でて また還《かへ》らむと 玉水の
(零《こぼ》れ落ちた水が再び元の場所に戻るように、玉水のような)


濁りなき世に 君を守らむ
(濁りなきこの世で、あなたを見守り続けます。)

この内容に従うと、「いつか姫君の元に帰るつもりだ」と宣言しています。また、「この世は玉水(自分)のように濁りはないので心配しないように」とも言っています。

つまり、姫君との別れは永遠の決別ではなく、あくまで「またいつか会いましょう」という位置付けで、より再会を予感させる内容になっていることが分かります。

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