見出し画像

転生モノを避けていた私が『陰の実力者になりたくて!』の1期を観た結果

【注意】

※最初は割と関係ない話が続くので、感想だけ読みに来た人は↓の画像を目指してスクロールしてください(辿り着くまでそこそこあります)。

↑コレ↑



転生モノとは、主にWeb小説を中心に流行っているジャンルだ。
例えば、よくある導入はこう。第一話で主人公がトラックに轢かれて命を落とす。しかし、目を覚ますと生前の記憶がある状態のまま、異世界で生まれ変わっているのだ。
この異世界というのは私達が思い描くファンタジーであることが多いが、最近のバリエーションは多岐に渡っており、ついこのあいだ、東から太陽が昇るがごとく当然の2期制作が発表されたあの『推しの子』も転生モノの変化球と言える。


で、この転生モノが注目され始めたのはもう何年も前。記憶の中では10年前には既にジャンルとしてあったような気がする(曖昧)。
しかし、これだけの盛り上がりがあっても私はほとんどこのジャンルに触れてこなかった。本も割と読むしアニメも観る方だったが、なんとな~くで食わず嫌いをしていたのだ。

だってさ…





いや、別に普通のファンタジーでよくない??????


って。元も子もない最悪の感想であることは分かっているが、本当にそう思っていた。とどのつまり「転生する意味が分からん」ということ。

私はそもそもベタなファンタジーが好きだった。だからこそ、そこに"前世の記憶を持ちながらメタ的に無双していく主人公"という今では転生モノお決まりの要素が加わることで、ファンタジーの世界観に水を差しているように感じられて嫌だったというのもあるかもしれない。

そんなこんなで「転生モノ? ふぅ~ん。まあ私はハリー・ポッターを読み返しますけど」みたいな原初ファンタジー小説イキリをしてきたわけではないのだけれど気持ち的にはそれに近い感じで悉く触れようとしなかったのだ。


しかし、そんな私もとあるきっかけから遂に転生モノに触れることになった。


アニメ『影の実力者になりたくて!』。愛称は影実。原作は例に漏れずWeb小説だ。

あー知ってる知ってる。ついこのあいだまでアニメがやっていたわ。なんかアトミックとかいうのが流行ってたよね。核? なんだかよく分からんけど。10月から2期か。ゲームアプリも出て結構人気なんだな。

お、Netflixにあるじゃんか。全20話って、なんかちょっとハンパなのはなんでだ? まあいいか。


カチッ(クリック音)


第一話か………………フゥン…いかにもこれ系の主人公っぽいなあ。(導入の転生後と思われる中二っぽい演出はカッコいい)。


フゥン………クラスメイトにやたら失礼だけど、ちょっと何かありそうな空気がこれまたいかにも。


ここで輩をぶっ飛ばしに来るのかな主人公…フゥン…………。


……………………………ん?





………………おいおいおい………ちょっと待て………。






いやいやいやいやいやいや!! 知らないって!!!!! ねえ!!!!!! 聞いてないよ!!!!!






いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!! え!??!?!? こんな感じなの!??!? え、強いとかじゃなくないもう!?!??! オーバーキルよ!???!??







こんな転生モノ知らないって!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(そもそも避けてたからそれはそう)



ホントにびっくりした。ちいかわのうさぎよろしく腕を組んで意固地になって関心を動かされまいとしていたのに、第一話からぶっ飛び過ぎててひっくり返った。主人公、ヤバい人過ぎ

まずバールのようなものではなくガチのバールをゴリゴリに人殺しレベルの道具にしているし、その使い方の解説まで懇切丁寧にしてくれちゃっている。いや怖いて

序盤から実は強いんだぜオーラを出していたのは理解していたつもりだったけど、これ程までにオーバーキルで悪をボコボコ…どころかグショグショにする高校生がいるのかよ。私が知らないだけで、もしかして最近の転生モノってみんなこういうの当たり前????? いや怖いて。

あとシンプルに「あ、転生する前から強いのね」が意外だった。こういうのっててっきり魔法を得てから色々出来るようになったりするものだとばかり思ってたから。
でも、それならそれで日常会話がサイコパスじみていることにもちょっと合点がいく。これでにこやかモテモテ好青年だったらもっと怖いからそれでいいよ。

で、案の定、激ヤバの主人公・影野実くんは落命。そして次回から遂に異世界にいくのね…というところで第一話が終話。はーん、よく出来てるもんです。

………。



そうだよ。全話観たよ。



私は、他の転生モノをロクに知らない。だから「陰実は結構テンプレだぞ」という人もいるのかもしれないし、「いやいや、影実はかなり転生モノでは異質だよ」という人もいるのかもしれない。自分の基準で比較が出来ないのだ。

ここから語る感想の全てはそこが前提になることを了承して欲しい。その上で言おう。面白かったのだ。



★★★★★★感想だけ読みに来た人はここからよんでね!!!★★★★★★



まず主人公のシド・カゲノーについて。
転生モノの醍醐味は前世の記憶がどうストーリーに関わってくるかだと私は勝手に位置付けていた。じゃないと「純ファンタジーでよくないですか?」の意見に戻ってしまうから。

シド君の場合。彼は第一話で示された通り常人離れしたフィジカルの強みがあるため、魔力を使って戦う魔剣士が職業となっている転生後の世界でもうまくやっていけることは始めから保証されていた(この保証されているという安心感も転生モノならではだろう)。
もちろん、シドがその強さで無双していく部分に影実の良さはある。だが、シドは主人公としての大きな特性をもう一つ持っていた。

それは、作品のタイトルである陰の実力者要素である。第一話で既に示されている通り、決して正体を明かさずに悪を討つダークヒーローこそシドが目指す陰の実力者の姿であり、そうあり続けようとするマインドが彼の行動全ての動力源でもあるのだ。
それと同時に、ただ強いだけの存在になりたがらないのがこの主人公のスゴいところ。いわば完璧なモブを演じることに心血を注ぐその様は常軌を逸しているし、いっそ愛すべき変態なのである
ここで前世の記憶が活きて(?)くる。「あ、これよくあるモブっぽい行動だ!」と思いつけばすぐさま実行するのがシド・カゲノー。でもこれ、正直なんの得が? という感じ。だって、どれだけモブの振る舞いを追求しても、誰もその努力や内面に気付くことはない。
それなのに、とことんモブたるが故のポリシーがブレないのは、彼のただの自己満足でしかないというのがまた異質だ。しかも、その延長線上の存在であるシャドウ・ガーデンが結果的に巨悪を倒したり人助けをしていても、そもそも主人公自身が全てお遊戯だと思っている始末。もう天然とかの域じゃない。

と、世界観はかなりエグいダークファンタジーにも関わらず、肝心の主人公がその自覚ゼロで無双しているという図式が影実の魅力なのだ。本当にただただ中二でありたいだけなのである。あんなにめちゃめちゃ人斬ってるのに。怖いて。


続いて、キャラクターとその人間関係の魅力である。
ビジュアルの時点でハーレムものっぽい空気が漂っているが、実際女性キャラクターはとてもイイ
私はアルファ様が大好きで、あの非の打ちどころがないクールビューティーさの中、秘められた狂気が不意に覗く瞬間とか溜まらないね。右腕ポジションというのも期待を裏切らない最高さ加減。

金髪エルフの時点で勝ちだと思ってるんだけど、他のキャラクターももちろんいい。七陰は個性的でストーリーに彩りを与えるだけではなく、戦闘シーンの活躍も見ものだ。圧倒的に強いし、キャラそれぞれの戦い方が見えるようにアニメ自体が上手く作られているからこその見応えがある。
ミドガル王国周辺の面々も粒ぞろい。当初はここもハーレムっぽい空気があったのに、一期が終わる頃にはシドに好意を寄せていたローズがシャドウ・ガーデンに参入したり、アイリスと完全な敵対関係になっていたりと、とにかくキャラクター同士の関係性から目が離せなくなる。ここから2期がどう展開していくのかが視聴者が大きな期待を寄せる部分でもあるだろう。


これを語らずして追われない。最後は声優陣について。
私はゲームのフルボイスも一切飛ばさないくらい声優さんの演技を聴くのが好きだ。アニメを観る時も、例えどんなにクソアニメだったとしても声優さんが上手いお芝居をしていたら許せるくらいには重要視している要素だ。
今これを読んでいるあなたが「いやいや、陰実はそもそも声優陣が豪華やろ。お前なんぞに吟味される筋合いないから」と思ったように、このアニメはもう全員飛車かよって布陣のキャスティング。声優オタクもホームページのキャスト表見ただけでお腹いっぱいになれると思う。

当然、本編の演技力は申し分ない。これを語るに外せないのは、もちろん主役を演じる山下誠一郎さんだ。元より芝居にストイックな印象のある声優さんだが、陰実に関しては怪演と言って差し支えないだろう。
シドとシャドウの裏表はもちろん、タメとキメの使いこなしが凄まじいし、アトミックは公式からギャグ扱いされているが、その一言を発するまでの引力が半端じゃないのだ。
私もアマチュアながらちょっとだけ芝居をかじっていた時期があるのだが、裏表がある役を演じる時、極端にギャップをつけることが効果的になると思ったら大間違い。シドのような役は繊細な技術があればあるほど効いてくる。ご本人も「陰実はギャグ」と仰ってはいるが、シャドウが本領を発揮する時のあくどい笑いや追い詰める時の口上なんかは本当にゾッとする瞬間もあるのだ。へらへらと頼りないシドと、圧倒的な力で相手をねじ伏せにかかるシャドウの極端な二面性をここまで魅力的に表現できる声優さんもそういない。まさに真の実力者だと思っている。

他に印象に残っているお芝居はというと、やはり最終話のアイリス王女だろうか。シャドウにしてやられたことを確信した瞬間に泣き崩れる様子は迫真。あとは清く強かだったローズがただの番号に堕ちる瞬間の虚しい悲鳴も耳に残っている。遡るが、アウロラの別れのシーンもグッとくるものがあった。

もちろんもっともっといいお芝居はあるのだが、本当にキリがないのでちょっととめておく。でもそれくらい声優陣は魅力的な実力者ばかりなのだ。



少年ジャンプで育った私は、Web小説の流行である「主人公が最強」という設定にのめり込めなかった節がある。
しかし今は違う。まだまだアニメや漫画、そしてWeb小説には、設定や世界観から侮れない魅力をもったものがたくさんあり、これからもそれがどんどん生まれていくのだと思うと楽しみで仕方ない。

ずっと避けていた転生系。それは転生モノという舞台の上で、キャラクターの魅力をいかに引き出しドラマを形作っていけるのかという平成の素晴らしいクリエイティブ・カルチャーなのかもしれない。

誰でも作品を表現できるようになった令和。楽しいことには乗り遅れないよう、新しいジャンルにはどんどん挑戦していこう。



2期放送前に観れて良かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?