読書感想文「生きているジャズ史」

評論というのは音楽とは切っても切り離せないもの。この人がいうなら間違いないと思って買ったらよかったり逆に大外れだった経験や、好きなアルバムが酷評されているのを読んだ時これの良さがわかってるのは俺だけだと得意になったりそのアルバムにいままで以上に愛着がわいたり、こいつより俺のほうがわかってると得意になったり…そんな音楽評論で面白い本を見つけたので紹介します。

 作者は油井正一さん。レコードを集めているとこの方が選盤した再発シリーズやライナーによく出くわしますね。この本は雑誌の連載が元で1959年にまとめられ1988年に加筆されたバージョンが現在復刻されています。今の感覚だと差別的な単語や表現もありますが書かれたのが古いことと差別的な意図があって使っているわけでないことは文章を読めば伝わってくるので個人的にはそこまで気にすることはないかなと思いました。ただだからと言って真似して使ったりするのはダメです。
 読んでいて思うのがとても面白いということ。今まで評論のような本を手に取っては「休みの日に教科書など読みたくない!」や「こいつミュージシャンへのリスペクトないし偉ぶってて鼻につく」と何冊も最後まで読まず投げ出してきたので読んでいて心地よさすら感じるテンポの良い文章はそれだけでもかなり好印象。
 多くの「辛口評論家」たちがよくないと思った作品を陰湿に貶したり日本はダメだとやたらと言いたがるのにそれが一切ないのは良かったです。よくない作品を悪くいうことはあれど陰湿さはないし、日本の音楽に関しても模倣と発展に関する説を引用したり文化の違いに触れそんなに悪くないと言っています。ほんとにその通りです。

内容としてはオリジナルのジャズ誕生以前からオーネットコールマン登場までと再発時に追加されたビッチェズブルーからのフュージョンについてですがニューオリンズジャズからスウィングにかなりのページをさいていて古いといえど今でも通用する良い資料だと思います。ビバップ〜フリージャズもリアルタイムで経験した人の意見は後追いの人とは若干違いがあって面白かったです。フュージョンに関しては悪くはないけど本編と比べると内容、文章ともテンポの良さや丁寧さが少し足りずモヤっとする感じでした。

最後にハッとしたのが菊池成孔さんの解説。とても難しい言葉を使い歴史や思想を絡めた堅苦しい文章です。油井さんの文章がどこか粋で噺家さんの喋りを文字に起こしたようなテンポの良さや歴史や思想に触れても深追いしていないのとは大違いです。どちらが良い悪いではないし人柄や考え方の違いと言ってしまえばそれまでかも知れませんがなんとなくジャズの動きと似ている気がします。最近のジャズというと生真面目でテクニックを重視したどこか硬さのあるようなもの、真面目に向き合いすぎたが故に生半可な気持ちでは聴けない重さやシリアスさがあるものが多いように思えます。話はずれますがその反動かフュージョン(というかスムースジャズ)は打ち込みとシンセを多様したインストR&BかBGMばかりで丁度いいのが欲しいなと思います。評論家もミュージシャンももう少し肩の力を落としたり理論から目を背けたって悪いことはないはずです。ただここは上手く言い表せないのと賛否が分かれそうな話題なのでここらへんにしておきます。

ツラツラと思いつくまま書いたので若干ゴチャっとした内容になってしまいました。こんなんを比較対象にするのはするのも無礼ですががこうして音楽について書いている身としてはこうなりたいと思わせてくれる一冊でした。ジャズが好きな方ならぜひ一度読んでみてください