見出し画像

水の空の物語 第5章 第26話

「春ヶ原ができる前の山頂は、植物の育ちにくい、荒れた土地でした。だから、草花は豊かな土地を願っていました」

 どこから話そうかと迷いながら、優月は口を開く。

「草花は私の根元で咲く、桃色しろつめ草でした。私がまず精霊として目覚め、次に草花でした。立貴はまだいませんでした」

 優月の言葉を、風花は身を乗り出して聞いている。

 好奇心いっぱいの笑顔でいた。
 人なのに純粋だ。

 どこか、夏澄に似たところがあると、優月は思った。

「草花はとても、甘えん坊な子でした。生まれてすぐ、まず私に抱きつきました。しがみついて離れません。山の動物に抱きつくのも、大好きでした」

 かわいいーっと、風花は目を細める。

「かわいいねっ。ね、夏澄くん」

 夏澄は、まるで草花を思い浮かべているように、優しい瞳をする。

 優月の頰は緩んだ。
 草花をかわいいといってもらうのは、優月にとっても喜ばしかった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?