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水の空の物語 第1章 第3話

 根元から見る桜色の花びら。

 その向こうの青空。川原で揺れる水面。跳ねあがった水しぶきを留める青葉。

 この世はきらきらであふれている。きらきらを見れば、心が救われる。

 この世の中は悲しいことはかりだ。

 その悲しさがなくなることはない。だからこそ、光を見ていたい。

 風花は耳を澄ませて、川の流れの水音を聞く。水音もきらめいていた。

 風花は長い間、ひたすらきらきらを感じた。気がつくと日が傾いていた。

 ふいに風が吹いた。

 桜の花びらが一枚舞って、ふわっと川の中洲に落ちた。 風花は花びらを追う。ふわっと川を飛び越え、中洲に着地した。

 落ちていた花びらに手を伸ばす。

「あれ」

 風花は髪を揺らして振りかえる。

 川下のアカシアの群生地に人影が見えた。 土手から完全に死角になっていたから気がつかなかった。

 風花と同じ歳くらいの少年だ。

 川に足を浸して立っている。澄んだ瞳をきらきら輝かせ、水面を見つめていた。



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