『夜明けの寄り鯨』 新国立劇場(配信鑑賞)

2022年上演。
当時ちょっと気になっていたけど、結局観に行かなかった作品。一ヶ月無料公開されていたので滑り込み拝見。

【作】横山拓也
【演出】大澤 遊
【出演】
小島 聖 みく、こと三桑真知子
池岡亮介 相野由嶺
小久保寿人 ヤマモトヒロシ
森川由樹 和泉景子
岡崎さつき 新実紗里
阿岐之将一 波須川永嗣
楠見 薫 景子の母
荒谷清水 景子の父

<STORY>
和歌山県の港町。手書きの地図を持った女性が25年ぶりに訪れる。女性は大学時代、この港町にサークルの合宿でやってきて、たまたま寄り鯨が漂着した現場に居合わせた。まだ命のあった鯨を、誰もどうすることもできなかった。
ここは江戸時代から何度か寄り鯨があって、そのたびに町は賑わったという。漂着した鯨は”寄り神様"といわれ、肉から、内臓、油、髭まで有効に使われたと、地元の年寄りたちから聞いていた。
女性が持っている地図は、大学の同級生がつくった旅のしおりの1ページ。女性はその同級生を探しているという。彼女はかつて、自分が傷つけたかもしれないその同級生の面影を追って、旅に出たのだ。地元のサーファーの青年が、彼女と一緒に探すことを提案する。

公式サイトより

どこかで「良かった」という感想を見かけた気がするけれど、アタシには少々辛いというか不快だった・・・。
捕鯨の問題だけでも簡単じゃないし重いし、それとLGBTQのアウティング→失踪(自死?)という相当ヘビーな話なのに、全てをほったらかしにして「忘れた方がいいね」で終わるという。え?!

2002年上演で25年前の思い出が語られるってことは、27年前。その頃の大学生ってこんなに子供っぽいのか?と唖然とする。まあ今も昔もそういう人は一定数いるんだろうけど、この芝居ではアウティングされたゲイ(と思われる)ヤマモト以外、全員まあまあひどい。

主人公みくが一番ひどい。好きだったヤマモトに告白したが振られ、彼に食い下がって質問攻め。景子の恋人である永嗣を好きなんでしょと言い出し、ヤマモトが肯定した訳でもないのにゲイだと決めつけ景子に話してしまう。
ヤマモトが宿を飛び出し行方不明となったが、罪の意識からかそのことを記憶から消して四半世紀生きてきたのもすごいし、その事実を聞かされた後も謝ったり悔やんだりとかしないのもすごいな、と思った。ラストシーンで「ヤマモトは(彼の描いた)地図の中にいるのかも」と感傷的にに呟くのがうすら寒い。

捕鯨反対派の紗里がヒステリックに宿の主人とやり合うのもキツイし、アウティングはいけないと友人ふたりに強く言った彼女が、激昂するにまかせて全員の前で暴露するのもひどすぎて観ているのが辛かった。
景子もヤマモトのことは忘れた方がいいとか、彼の描いた地図をみんなで海に撒こうというぞっとする提案をしたり。良い話っぽくしましたって感じが、マジョリティの悪気のない傲慢さでこわい。
永嗣もゲイを茶化したり恋人に対して不誠実だったりで、まああまり良いイメージはない。失踪したヤマモトを探す姿が必死だったのが悪い人じゃないかなと思わせたけど、みくの婚約者が彼だったというのはどういうオチだろうね。

ヤマモトは被害者でひどいことをされて可哀想と思われる対象だけど、どういう人間かはあまり描かれていなくて。ほんとうにゲイだったんだろうか。いやそうなんだろうけど、決定的なことは明示されていなくて。
ピュアだったぽい描写が、思い出を美化するあざとさか?と考えてしまうのは穿ち過ぎかなあ。自分も汚れてスレたBBAなのでしょうがない・・・
でも演じた小久保寿人さん、よかった。初見だけどチト気になったわ。

登場人物で唯一25年前の事件と無関係な相野。話を回すための要員といった感じ。でも狂言まわしでもないので、必要だったのかな~と。久しぶりに池ちゃんの顔見て懐かしかった。
景子の父母は良かったな。安心感。特に楠見さん、ものすごく久々に拝見できて嬉しかった。

話の中身的にはストレスフルだったけど、美術はとてもよかった。
素舞台に近いんだけど、床には海を思わせる淡いブルーのペイント。八百屋になった板と、面の方にちょっと段差があり降りたところは平面で、波に頭を隠した鯨が日本画風のタッチで描かれている。よい絵面。
上部には大きな鏡が斜めに吊ってあり、床面や鯨の絵が映っているのが見える。
波や波紋が光で映し出されたり、とても美しかった。これは劇場で観てみたかったなあ。

何にせよ、ただで見せていただいてありがとうございます。新国立劇場さん。自分も無意識で他人を傷つけている可能性があるんだなあと、かえりみてみる。(無意識だから大体分からないんだよな・・・)

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