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『オーレリアンの兄弟』 EPOCH MAN

2021年8月19日(木)19時開演
@下北沢駅前劇場
¥4,500

EPOCH MANはみっちーこと小沢道成くんのソロプロジェクト。作・演出だけでなく、美術やその他制作など裏方の仕事もまるっとひとりでやっているという。クリエイティブな姿勢ごと好感を持てるし、成果物の色も好みなものが多いので注目しているのだ。キャストに中村 中さんというのも良い。舞台で2回ほど拝見したけど、とても素敵だった。声も好き。
今回、美術は外注したらしいけど、その分芝居本体に熱量が割り当てられるなら良いとおもう。もう少し大きいものを作りたいという目的があるそうなので、それもまたたのしみでしかない。

オーレリアンとは“蝶を愛する人”のこと、または“金色の蛹(さなぎ)”──。
世界中を旅して、
綺麗な洋服を着て、
お腹いっぱい食べて、
そんな夢をリュックに詰めて、家を出よう。
今夜、手を繋いで、ここから逃げよう。
――これは“おかしな家”に迷い込んだ、現代に生きるヘンゼルとグレーテルの物語。(公演チラシより)

開演までの時間、SEは古楽器かな? 中近東風でタブラトゥーラっぽい感じ。
客席の真ん中に花道のような舞台に続く通路があり、レンガというか、ゴツゴツした石のブロックの壁が舞台面(ツラ・客席側の際)まで迫っている。
客電が落ちて開演、SEはごうごうという風雨の音。舞台の壁がドアのように真ん中から開いて舞台の奥に突き当たり、暖かそうな部屋が出現する。そして客席から通路を通って、兄妹が登場。訪いを入れると「Welcome back, did you enjoy yourself today?」と明るい声の応答が・・・

今回は現代版『ヘンゼルとグレーテル』だそう。昨年観た『鶴かもしれない』は現代版『鶴の恩返し』だったし、アタシは未見だけどその前は『人魚姫』だったとか。現代版お伽話、シリーズ化できそう。
『ヘンゼル〜』はネグレクトが題材だし、重たい話なんだろうなと身構えたら冒頭はコミカルで、ちょっぴりあれっ?とたたらを踏んだような。石のブロックはあちこちに仕掛けがあって、戸棚だったり衣装箪笥や冷蔵庫、電子レンジになっているのだ。
そんな“おかしな家”の仕掛けに驚いたり喜んだりするふたりにクスクス笑いが起こるが、もちろんそれで済むはずはない。

キャッキャとはしゃぐ愛おしい兄妹。思い出話、これからの話、自分の“思い”の話。ふたりの痛々しい過去と、愛情と、少しずつずれていく“思い”。支配されていた者がそこから逃れ、次はするりと支配する側へ反転する。
蝶は愛され、蛾は嫌われる。蝶と蛾の差とはなんだろう。
「私は私になりたい」。妹の言葉が胸につよく響いた。
ラストシーンが示すのは、果たして希望か絶望か。断定されていない故にモヤモヤするかもしれないけれど、だからこそ解釈は自由とも。アタシとしては絶望を見たくはないと思うのだけど。

「オーレリアン」という言葉で調べると、辞書には人名とあるだけで他には何も出てこない。ネットで検索しても「オーレリアンの庭」ばかりがヒットして要を得ない。けど、色々掘っていくと、ラテン語で「金色の蛹」というのが元で、そこから派生した意味が「蝶を愛する人」。オーレリアンの庭というのは写真家の方が作った庭なんだそう。琵琶湖の近くにあるというその庭はどんな場所なのか気になるけれど、見学などはできないらしい。

舞台のパンフレットは必読と聞いて、真っ先に購入して帰りの電車で読んだ。この作品のお話や衣装、舞台、広告などの美術含めた制作裏話からおふたりの対談まで、たっぷりと読み応えあり。この作品自体を(音楽を担当というだけでなく)、中さんとふたりの共作と言えるくらいにがっぷりでつくったっぽいのもなんだかトキメク。
前述の庭についても、写真家さんに会って話をした件りが詳しく書かれている。おすすめ。

この日はマチネで『もしも命が描けたら』とハシゴして、これもなかなかに良いお話でたっぷり反芻したかったんだけど、ソワレにこれ観ちゃったらバーンってマチネの印象がすっ飛んじゃった。本当はできるだけハシゴしたくないのよねえ。いい作品であればあるだけ、反芻して味わいたいから。
とゆー訳で、この記事書いていったん吐き出したら『もしも〜』の方に取り掛かりたいとおもいます。

そういえば。観劇当日は気持ちよく晴れた日だったけど、直前まで連日雨で、しかも結構な荒天の日も多かったから芝居の中で雨風が轟々いってたのがよりリアルだったのではないだろうか。
むかし駅前劇場でラジオ劇の効果音を作る人たちの芝居を見ていたら、雷の音を作るというシーンでゲリラ豪雨になり、リアル雷が鳴ったことを思い出した・・・。赤星さんが苦笑いでアドリブ言ってたっけな〜。

これもまったくもって余談なんだけど、芝居中に戸棚から出てくるお菓子や冷蔵庫に入っていた食品類の多くがカルディの商品だったので、ついチャオコーだ、ラ・プレッツィオーザのキドニービーンズだ、スナイダーズは先日回収になったな、などと雑念が入ってしまった〜。不覚!

公演公式サイト→ EPOCK MAN『オーレリアンの兄妹』


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