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『エンジェルス・イン・アメリカ』 新国立劇場

第一部「ミレニアム迫る」
2023年4月18日(火)17:30開演

第二部「ペレストロイカ」
2023年4月19日(水)17:30開演
通し券 13,800円

翻訳物は苦手だし、浅学なものでどういう作品か全く知らず、お堅いアカデミックな話だと思ってスルーするつもりだった作品。でも浅野さん観たさで、しかもご本人が出たくてオーディションまで受けたのならばと思い、チケットを取った。那須さん、山中さん、杏ちゃんと、他のキャストも良さそうだし。上演時間の長さ(7時間半!)にも怯んだが、二日に分ければ何とかなるかと腹を決めて。
そして観てみたらば、全然お堅くないじゃないの! おもしろかった。第一部3時間半、第二部4時間という長さも、休憩が2回入るし苦にはならなかった。おもしろいからこそ長さが苦にならなかったのかな。

<第一部>
1985年ニューヨーク。
青年ルイスは同棲中の恋人プライアーからエイズ感染を告白され、自身も感染することへの怯えからプライアーを一人残して逃げてしまう。モルモン教徒で裁判所書記官のジョーは、情緒不安定で薬物依存の妻ハーパーと暮らしている。彼は、師と仰ぐ大物弁護士のロイ・コーンから司法省への栄転を持ちかけられる。やがてハーパーは幻覚の中で夫がゲイであることを告げられ、ロイ・コーンは医者からエイズであると診断されてしまう。
職場で出会ったルイスとジョーが交流を深めていく一方で、ルイスに捨てられたプライアーは天使から自分が預言者だと告げられ……

<第二部>
ジョーの母ハンナは、幻覚症状の悪化が著しいハーパーをモルモン教ビジターセンターに招く。一方、入院を余儀なくされたロイ・コーンは、元ドラァグクイーンの看護師ベリーズと出会う。友人としてプライアーの世話をするベリーズは、「プライアーの助けが必要だ」という天使の訪れの顛末を聞かされる。そんな中、進展したかに思えたルイスとジョーの関係にも変化の兆しが見え始める。

公式サイトより

1985年、エイズはゲイが罹る不治の病と認識されていた時代。
主人公の若者プライアーと悪徳弁護士ロイ・コーンのふたりのエイズ患者と、彼らを取り巻く人々が描かれる。当時はゲイに対する不理解や差別も今より厳しい状況だったのに、さらに恐ろしい病に脅かされて・・・。

出演者は8人だけど、登場人物は29人(声だけのキャラも合わせると相当な人数になる)。全員が複数の役を演じていて、しかも脚本に兼任キャストの指定がしてあるらしい。例えば冒頭で演説した年老いたラビ(ユダヤ教の指導者)を那須佐代子さんが演じていたり、司法省のオッサンが杏ちゃんだったり。どういう意図だかアタシには判らないけど、老若男女の縛りナシでいろんな役をいろんなひとが演じるのはおもしろい。
女性が男性を演じることに若干苦手意識があったんだけど、これはアタシ自身の偏見からくるものだったのかなあ。どうもギャグにしか思えなくて。でも那須さんや杏ちゃんがうまいせいか、いつの間にか普通に受け入れてしまっていた。

短めのシーンがサクサクと展開していくので、飽きずに観られたのかな。シーン中に少なくともひとつは笑いが差し込まれていると那須さんがおっしゃってたけど、その通りに意外にもたくさん笑った。コミカルなシーンが結構多くて。
ハーパーの脳内キャラ・Mr.ライズのブッ飛んでる出立ちとか、天使の出現シーンとか、コメディだもんなー。「スピルバーグだ~~」ってwww

いやしかしルイスがほんっとクズ過ぎて。いや確かにエイズは怖いけどさ。逃げるのも已むなしだけど、ジョーと浮気(本気?)したのにしれっと戻ってくるとか腹立つ~。憎たらしいわけじゃ無いけどさ、ルイスの中の人も「愛すべき大馬鹿者」と評してたのは笑える。でもアタシは愛せないな! ジョーが切ないよまったく。でもお互いをよく知らんうちに公園とかで致してしまうとか結構生々しい展開にヒエッとなったわ・・・。

どのキャラクターも立っていたし、役者さんも皆さんとても良かった。さすがフルオーディション。個人的にいいなと思ったのが那須さんのハンナとエセル。どちらも魅力的なご婦人でかっこいい。
山西さんのロイ・コーンもすごかった。めちゃくちゃ憎たらしいんだけど、死んだふりのシーンとか子守唄をねだるところとか良かったな・・・
そして何といっても浅野さんのベリーズ! もともと浅野さん目当てではあったけど、とても良い役で嬉しい。なんという包容力。ベリーズのあたたかさは浅野さんと通ずるところがあるのじゃないかな、と思ったり。
「許すって大変なのよ」
「(許すことは)愛と正義が出会う場所」
ベリーズのお衣装も好き。チェックのロングコート、あれはアタシも欲しい。

そういやメインの登場人物8人のうち男性は5人なんだけど全員ゲイだったわ。そりゃまあゲイの話だからね・・・

感染症、同性愛、宗教、政治、人種、テレビドラマ、映画など、当時のアメリカについてもっと詳しかったらもっと面白かっただろうなあ。宗教、人種、政治についてはたぶん日本人であるというだけでこの戯曲を味わう素地が足りないだろうし。モルモン教なんて「聞いたことある」ってアホアホ具合でホント残念なアタシ・・・。
パンフレットは買って良かった。用語解説めっちゃありがたい。コラムや鼎談も読み応えあって、それでなんと1000円、お値打ち!(『背信者』は2800円、『ダブル』は2500円だったかな? 値段見て買うのやめたもんね)
でも歳だけは無駄にとっているので、あの時代の空気感はぼんやりと覚えている。(日本の空気だけど)暗転の時にかかった曲は懐かしかった。Frankie Goes To Hollywoodの”Relax"、A-HAの“Take On Me”、David Bowieの“Modern Love”、それにBruce Springsteenの“Born in the U.S.A.”(←まさに)

色々思ったことはもっとあって書き足りないけど、キリがないのでこの辺で。
プライアーが預言者だっていう件(くだり)とかは何というか、飲み込みきれてないので、もう一回観たいなあ。お財布的に無理だけど。戯曲も第二部については出版されていないらしいし。いっそ今回の脚本を販売してくれないだろうか。
アタシが観たのは初日とその翌日だったのですが、長丁場の東京公演もきのうが楽日だったのよね。お疲れさまでした。
6月3日は豊橋、6月10日は兵庫公演ということなので、ご都合のつく方はどうぞご覧になってください!


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