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午前2時山手通り。

寒いから缶コーヒーを片手に通りを歩く深夜2時。
この寒さも君と過ごせばなんてことないのにあえて1人で歩くことを選んでいる自分がいるんだ。
君は僕の吸うタバコの匂いをいい匂いというけれど、僕が今日会った君の知らない子は臭いと言ったよ。

そんな日々が毎日続くとは思ってはいないけれど、やっぱり君の顔を見ると安心するんだ。

自販機で買った缶コーヒも冷めた頃ふと我に帰る自分がいるよ。

どうして君と会う時は髪型なんて気にしないんだろう。服装なんてジャージにパーカーでいいのに。君は僕のタバコの銘柄まで把握してる。この温度の差に僕は安心していたのだろう。

セブンイレブンを過ぎた頃、なんだか忘れ物をした気がして後ろ髪を引かれる思いになる。僕には買い忘れたものなんてないのに。誰かに声をかけられた気がして店内に入る。
君が好きなハーゲンダッツのマカデミアナッツ。
それを横目に僕はレギュラーサイズのコーヒー1つと168番とを店員さんに告げる。

君はコーヒーなんて飲めないのに僕が喫茶店を好きなのを知ってるからタバコの吸える喫茶店を調べては一緒に行こうと言ってくれていた。ここのナポリタンが食べたいからなんて言い訳をして教えてくれた神保町の喫茶店。そういえばこの前神保町で古本市やってたね。君のことだから多分よくわからない哲学の本なんて買って満足しているんだろうな。

聴く音楽も、一緒に観に行く映画も、すべて僕好みのものだった。君の好きな今泉力哉の最新作は君とは別の人と行くことになったよ。初めて一緒に行った映画は街の上でだった。世界観を大切にしたいと君が言い張るから下北沢の映画館にわざわざ観に行ったんだ。平日の昼間しかやっていないその時間はふたりの世界だった。その後に行った古着屋さんで君が選んでくれたブルゾンは今でもお気に入りだよ。

君と最後に会った日に買ったタバコももうすぐ無くなってしまう。このタバコを吸い切ってしまうと君に会えないような気がして、さっきセブンで新しいのを買ってしまった。

君がバカにしていたあの映画をこの前観たよ。あの映画はいい映画だったよ。と話すことはできなくなった。この感想を聞いたら君は多分失望するだろうね。

昨日の皆既月食みた?そんな何気ないことすらLINEで送ることすらできない。君と一緒に見に行って上手く撮れないやなんて言い合ってる夢を見たのにね。
なんだか僕は嬉しかったんだ。普段は当たり前のように存在している月がみんなに注目されていて。いつも当たり前に存在しているものの良さに改めて気がついた気がして。

こんなことを考えてたらもう家につきそうだよ。君は寝ているだろうけど僕はこの時間が好きなんだ。君が知らない全てを知れている感じがして。

君は変わらないままでいてほしい。
峯田の追っかけをしている女を罵倒していてほしいし、新しいインディーズバンドを見つけてほしい。LINEのプロフィールの音楽になって僕は初めて知るのだろうけれど。



この物語は全てフィクションです。

おやすみなさい。暇つぶしでした。


はしもと。

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