THE KEBABSはクソ楽しい

 THE KEBABSのファーストアルバムでありメジャーデビューでもあるアルバムが、2月26日に発売された。メジャーデビュー盤にしてライブ盤。ライブをするために結成されたといっても過言ではない彼らにぴったりの形態でのリリース。ロックバンドを愛してやまない彼らが、ロックンロールは楽しいと全力で叫んでいるようなこの音源は、今年1月に行なわれた録音ライブの模様をそのまま収録したもので、オーディエンスの興奮やそれを受けるメンバーのテンションもそのままパッケージされている。

(因みに同日の追加公演に行ったときの記事→https://note.com/miyy/n/ne566cabe0efa?magazine_key=mc44eaa65c94a)

 「ハナクソほじっててもできるバンド」という、メンバーそれぞれに本業があるからこそのバンドコンセプト。だから楽曲も、ライブ中にステージ上ででサラッと作ってしまうほど単純なもの。でもだからこそ初めて聴いても踊ってしまう。それがロックバンドの作る音楽であり、それが許される空間がライブハウスだったりする。

 アルバム(収録ライブ)はナレーションから始まり、1曲目は“オーロラソース”。一度フレーズを聴くと誰でも歌えてしまう繰り返しのサビ。誰でもノれて、バカになれる。公開されたMVからもいい意味でのやる気のなさが伝わってくる。

2曲目、”THE KEBABSがやってくる”。この曲も、言ってしまえば大したことは言っていない。だけどバンドロマンを感じて思わず熱くなってしまう要素がある。ライブをやるために生きているこのバンドが、ライブをやりに俺ら(あたし)の街にやってくる。いかしたやつらが歌う、いかしたやつらと歌う今夜。マジではずせない夜をいつでも取り出せるのだから、オーライオーライなことが全然なくたって歌っていられるかもしれない。

3曲目は、”すごいやばい”。この曲、タイトルからしてすごいやばいのだが、聴くと何故か名曲感が半端ない。ライブで初めてこの曲を聴いたときに、サビの名曲感が凄いなと思った。サビ前からサビにかけての歌詞の、わかるようなわからないような絶妙なラインが良い。すごいやばいギターを聴いて、新井がこのバンドにいる勿体なさと、彼がこのバンドで遊んでいることの愉快が同時に味わえる。メンバー全員それぞれにキャリアや技術があるからこそ、バカバカしさが相当の説得力をもってくれている。そしてロックバンドは最高だとか、自分もバンドをやりたいという気持ちにさせてくれる。そんなこんながTHE KEBABSの存在意義でもあるのかもしれない。

4曲目、”恐竜あらわる”。イントロからもう体が動いてしまう。勢いに身を任せつつ、サビ前に曲の展開が変わり、佐々木の歌にフロアは否応なしに煽られる。下らない歌詞に熱過ぎるギターソロ。そのバランスが最高にウマい。

5曲目は、”ピアノのある部屋で”。この曲でも相変わらず、鈴木の鳴らす正確で軽快なドラムの音が響いている。程よく渇いているスネアに、太いベース音。そしてフロアを躍らせる佐々木の歌声。彼らはどの曲中もTHE KEBABSというロックバンドでしかない。

6曲目、”ホラー映画を観よう”。佐々木がこれを歌っているのがどの角度から見ても芳しくて、初めて聴いたときは笑うしかなかった。イヤホンで聴くとより際立つ、佐々木の囁き声とその色気。どう考えても無駄遣いなところも含めて最高でしかない。
そして“ホラー映画~”から、7曲目の、”メリージェーン知らない”へ続く流れ。セットリスト=アルバム順。リリース形態による強みが存分に発揮されている。”ホラー映画~”のアウトロのセッションから間髪入れずに”メリージェーン~”へ。オーディエンスの曲への戸惑いや、不穏めいた音への余韻を掻っ攫うテンションで始まったこの曲に、フロアからの歓声。ステージ上のメンバー同等かそれ以上の叫びを、思い思いに表現するオーディエンスの空気が、この音源に残り続ける。

8曲目、”THE KEBABSは忙しい”。この曲がとにかく良い。まずイントロのベースラインが楽しい。そして佐々木と田淵のツインボーカルの掛け合いでさらに曲のテンションに拍車がかかる。一気に畳みかけて、ポップなサビに入る。そこで繰り返しの後に置かれている歌詞の鋭さ、それを包み隠すフリをしてブチ鳴らすバンドサウンドという構図が、ロックンロールを手放させない。

9曲目、”猿でもできる”。ライブで聴いたとき、結局この曲で歌っていることが彼らのすべてなんだろうな。と思ったのだが、今冷静に歌詞カードを見てみると、なんとたったの2行。しかも正確には二言しか歌詞がない。「踊れるやついるか」、「猿でもできる」。このフレーズだけで約4分。ライブでは佐々木のアレンジが入っているが、内容としてはこれに当てはまることしか言っていない。でも、そんな二言のせいで結成して、二言のためにライブをやってCDを出すバンドだとしたら、それでいてくれたら、ロックバンドを愛するリスナーとしては、こんなに愉快なこともない。

10曲目、”枕を変えたら眠れない”。the pillowsの周年記念映画の劇中歌として作った楽曲だ。王道でノりやすい。なんといっても、「いっそでかい音で好きな歌を聴く!」という詞が良い。それだけでいい。でかい音で好きな歌を歌っているやつらをみたいやつがみに行く。そこで好きな歌を聴く。小さな小さな、他人にとっては下らない幸せでも、それが正義だと思うならそれでいい。歌うだけでいい。聴くだけでもいい。自由に楽しめればそれでいい。それがロックンロールだと、佐々木の歌声はずっと叫び続けている。

 この高クオリティー且つ低クオリティーな音源が、サブスクリプションでも聴けてしまう。そしてCDの初回盤は2枚構成で、プラス6曲分もTHE KEBABSの音を楽しめる。CD派の人が手に取ってニヤッとできる仕掛けも施されているから、自分に合ったスタイルで彼らの音に触れてほしい。

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