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空飛ぶストレート【ショートショートnote杯】

どうしよう。

9回裏。2アウト満塁。5対3。絶体絶命。
夏の高校野球県予選決勝。
ここを抑えれば、甲子園に行ける。

だけど、俺の弱気の虫が疼きだす。怖くてたまらない。俺には勝負師の才能はなさそうだ。

相手は4番打者。体格も良く、とにかくかっ飛ばすヤツだ。どこに投げても打たれそうな気がする。

俺の異変に気付いた捕手のケンタがタイムを取り、こちらへ駆けてきた。

「ショウ。俺を信じろ!あいつらを信じろ!お前の渾身の球を投げてこい!」

ああ、そうだ。野球はひとりで戦うものじゃない。みんなで戦うんだった。そんな事さえも分からなくなっていた。

俺は深呼吸をした。
よし、ここまで来たらやるしかない。打たれて負けたら本望だ。

ケンタの要求はストレート。

ケンタに向けて、まるで空を飛ぶようなストレートを放り込む。

バッターのバットに当たった打球は高く上がり、ケンタのミットに収まった。
どよめく歓声。駆け寄る仲間。勝ったんだ。俺達の夏はまだ続く。



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