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【シロクマ文芸部】絡む眼差し


 珈琲とケーキで一休みしようかと学校の近くの喫茶店を覗いてみた。学生がたくさん集うそこは、カフェではない昔ながらの喫茶店だ。そこでは意外な二人が笑いながら珈琲を飲んでいる。同級生の松本君と荒木さんだ。

 私は密かに松本君の事が好きだ。その松本君が荒木さんと付き合っているなんて信じられなかった。こう言っては何だけど、荒木さんは地味で真面目そうな子で彼女にしたいタイプではないと思うからだ。それが一体なぜなんだろう。たしかに最近の彼女は少しかわいくなったような気がするけど、その理由がこれだった訳なのか。

 私はすぅっと大きく息を吸い込んで思いきり吐き出してからドアに手を掛けた。

 カランコロンカラン…
 ドアベルが鳴ると、店員さんの「いらっしゃいませ」の声がする。私は迷う事なくあの二人のテーブルの横のテーブルに向って行った。

 「あ、二人も来てたんだ?私もここに座っていい?」
 「矢川さん、うん、どうぞ!」
 話してみると、荒木さんは人当たりも良く感じのいい人だと思った。荒木さんには悪いと思うけど私も松本君の事が負けないくらいに好きなのだ。荒木さんには絶対に負けたくはない。

 珈琲を飲みながら、楽しく話をするふりをして情報を聞き出していった。二人はまだ付き合って間もない事、松本君がバイトをしているお店の事、松本君が気に入っている物、様々な情報を私は頭に刻み込んでいった。絶対、松本君を振り向かせてやると一人で闘志を燃やした。

✙ ✙ ✙

 翌週から私はバイトを始める事にした。バイト先はもちろん松本君がバイトをしているお店だ。松本君が私の指導係になってくれた。少し驚いた顔をしている松本君ににこやかに挨拶をした。
 「松本君、いろいろ分からない所は教えてね」
 「矢川さん、驚いたよ。まさかここでバイトするなんてね。こちらこそよろしく」

 それからの私は恋心をさりげなく匂わせつつ、松本君にいろいろ教わりながらバイトを頑張った。頑張ったおかげか、バイト先の先輩にもかわいがられて楽しい毎日を送る事ができた。それからしばらくした頃、私はある先輩にLINEで告白された。そこである考えが頭に浮かんで、松本君に話しかけてみた。
 「松本君。今日、バイトの後に時間ある?」
 「どうした?莉奈、何かあった?」
 「うん、ちょっとね」
 「分かった。バイトが終わったら飯行こう」

 バイトの後、二人でファミレスに行った。そこで私は松本君にスマホを見せた。
 「あのね、私、浜田さんに告られちゃった」
 「莉奈はどうなの?」
 「私、浜田さんとはそんな気になれないよ。だって、私には好きな人がいるんだもん」
 私は画面から顔を上げて、松本君の目をじっと見つめた。思いを込めた視線を受けた松本君は私の目を見つめ返してきた。だけど、私はこのまま視線を外して運ばれてきたシーフードドリアをふーふーしながら頬張った。

✙ ✙ ✙

 学校やバイト先では相変わらず恋心をさりげなく匂わせつつ、普段通りの日々を過ごした。風の噂で松本君と荒木さんが別れたと聞いた。そういえば、最近の荒木さんはなんだか元気がなさそうだ。私のせいなのかもしれない。元気のない荒木さんを見ると、少し胸は痛むけど仕方がない。だって、私も松本君が好きなんだから。それに、松本君の横にいるのは私の方が似合っているはずだ。

 松本君が私に何か言いたげな視線を送ってくる。だけど、私からは何も言わない。ただ、思いを込めた熱い眼差しを松本君に送るだけだ。松本君が私の隣で手を繋いで微笑んでくれる日ももうすぐそこだ。


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小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「珈琲と」です。

なぜか、まちぶせが頭に浮かぶ始末です。
それで、この曲から創作してみました。けどけど、なんか後味悪ーいお話になってしまいましたね。
書いてて、こいつ性格悪っ!と思いました💧
でも、好きな気持ちが強すぎると、周りが見えなくなって痛い子になってしまうのかもしれません。
とりあえず、若気の至りでセーフ案件ですかね?


好きだったのよあなた胸の奥でずっと
もうすぐわたしきっとあなたをふりむかせる
あなたをふりむかせる

まちぶせ 荒井由実



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