千羽鶴とヤンキー君
私は中学生の時、卓球部に入っていた。
私が持っていた当時の卓球のイメージは、気楽に打ち合うゆるい感じだった。それで、とりあえず楽そうだからという理由で友人と選んだ部活だった。運動が苦手なので、運動部には入りたくなかった。さりとて、文化部にも入りたいのが無かったので消去法で選んでみたのだけど・・・
入ってみると、キツイ事この上なかった。先輩達は怖いし、トレーニングはキツイし、球拾いはキツイし、スマッシュとかが当たると痛いし、後悔する事だらけだった。
中体連や新人戦などの大きな大会の前には千羽鶴を折らされた。折り紙は指定で、部費でまとめて買い、それを部員にノルマ分が配られた。
このトーヨーの折り紙が大量に配られるのだ。一度に何枚くらい折っただろうか。覚えてはいないけど、何日も掛かって必死に折り上げた事は覚えている。
その折り鶴は、ピシッと折り目を入れて、白い所が残らないように丁寧に折らなければならなかった。そして、首は曲げずに真っすぐのままで仕上げるのがデフォだ。それは「曲げる」と「負ける」を掛けていたからだ。
集められた折り鶴はグラデーションになるように糸に通され、束ねられた鶴の上から透明のセロファンを巻き、上に綺麗なリボンを掛けて完成だ。リボンのついた花束を逆にした感じと言えばイメージできるだろうか。
できあがった千羽鶴は、先輩方に恭しく手渡された。今度はそれを試合の応援に持っていくのだ。
急に暑くなり、夏の訪れに中体連の事を思いだした。それで、大会に付き物の折り鶴の事を書いてみようと思う。
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中1のクラスは割といい人が多く、男女の仲もそこそこいい楽しいクラスだった。中高の6年間で一番いいクラスだったと思うくらいだ。
当時はまだ「不良」「ツッパリ」が幅を効かせていた時代で、うちの中学は市内でも「荒れた中学」に分類されていた。私達の学年はそうでもなかったものの、2つ上の学年は絵に描いたような不良学生が男子も女子もたくさんいた。
その中には、小学校の時に優しくしてくれたお姉さんも混じっていて、変わってしまった姿を見掛けた私は、なんだか複雑な気分になった。彼らの卒業式の時には警察がたくさん来ていて、かなり怖かった事を覚えている。その怖かったのは、警察が来ている事よりも、卒業生である彼らの恰好がよりパワーアップしていたからだった。
うちのクラスにも、そういう不良っぽい男子が2名ばかりいた。
普段はその子達とは話す事もほとんどなかったけど、2学期になってそのうちの1人と席が隣同士になってしまった。内心、ちょっと嫌だなと思ったけど、別に嫌がらせをされる訳でもなく、たまに少し話をしたりで普通に時は過ぎていった。
しばらくした頃、私は折り鶴のノルマの折り紙を大量に受け取った。たしか、新人戦の為の折り鶴のために。上にも書いたように、折り鶴はビシッと美しく折らなくてはならない。かなり時間も掛かる作業なので、私は休み時間も友達とおしゃべりをしながらも必死に折り鶴を折った。どうかしたら、授業中に内職もした。
折り鶴を折り始めて数日経った頃、隣の席の不良君が話し掛けてきた。
「俺も鶴折ってやるよ」
私はびっくりして、一度は断った。でも、不良君は折ってくれるとまた言うので、折ってもらう事にした。
折りながら少しおしゃべりしたんだけど、意外と普通の子なんだなという印象を受けた。不良君は改造された学ランを着ていて、それを私にも見せてくれた。学ランの裏には、刺繍が入っていて綺麗だった。カラーは外していたんじゃなかっただろうか。それに、ズボンも多少はボンタンだったし。なかなか見る機会のない物を見る事ができて、ちょっと楽しかった。
不良君は1年生という事もあって、まだ下っ端扱いだったんだろうと思う。それに話してみて分かったけど、どことなく素直さのある感じで悪ぶっているけど、悪くなり切れていない感じがした。
一緒に折り鶴を折ったのはその時1回きりだったけど、思いがけなく楽しい時間だった。
それから話すようになったのかといえば、そうではなくあまり接点はなかった。
うちの中学はいわゆるマンモス校だったので、2年に上がる時に学校が分けられる事になった。不良君は新設の学校に移ったので、それからもう会う事も不良君の話を聞く事も無かった。
不良君は今頃どうしているのだろう。
少しは勉強して高校に行ったのだろうか。
今頃はおじいちゃんにでもなっているのかな。
人は良さそうだったから、家族や仲間と幸せになっていればいいなと思う。
普段思い出す事もなかったけど、中体連から千羽鶴を連想したら不良君の事をひょっこり思い出したので、noteのネタができたとばかりに書いてみた。
千羽鶴は今の時代にも折らなくちゃいけないのだろうか。
そういえば、メルカリやヤフオクで折った折り鶴が売られているのを見た事がある。そんな物まで売れるのだなと感心する。
私も卓球部仕込みの美しい折り鶴を折り上げて販売してみようか。でも、販売価格と労力が見合っているのかが問題だ。
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