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戦時のウクライナ、ひとり旅 10 〜前線基地を離れ、大河の流れるドニプロへ〜

13時、前線基地のクラマトルスク駅発、オデッサ方面行きのウクライナ鉄道に乗り込む。
10日間の休暇に出る兵士たちも、クラマトルスクまで兵士に会いに来た家族たちも乗車している。

ウクライナ・カラーの青と黄色、ウクライナ国章の鉄道

駅舎での待ち時間、隣のベンチに座っていた若い兵士が偶然私と同じコンパートメントだ。彼がどこかひと目のつかないところで軍服を普段着に着替えると、タンクトップに半ズボン姿のごく普通の若者に戻る。
5月末、初夏の列車旅。冷房のない古い車内は暑く、この若者が木枠の窓(固く重く、私は開けられなかったのだ)を開けてくれると、涼しい風が吹き込んでくる。

しかし、14時前、バルビンコベ駅を過ぎる頃に雷が鳴り始め、突然の雨。車掌が来て、窓を閉めてしまう。

私が今向かうのは、ドニプロ。その名の通り、大河ドニプロ川が流れる中東部の都市だ。

このドニプロ川を地図で見てみる。
ロシア西部のドロゴブージから流れを発し、1994年から独裁者として君臨し続けるルカシェンコ大統領の国、そしてロシアからの核兵器を配備されたベラルーシを通り、最後の国であるウクライナに入る。
ウクライナでは、首都キーウ(鉄道の乗り換えで1日を過ごしたキーウでも、ドニプロ川を眺めたのを思い出す)を通り、1986年にチェルノブイリ原子力発電所事故が起きて無人になったプリピャチを横切り、今、列車で向かっているドニプロ、その後はロシア軍による占領の続くザポリージャ原子力発電所、ロシア軍に占領されていたヘルソンを通る。
下流に行くと、2022年6月にロシアによる攻撃で破壊されたダムのあるカホフカを通り、最後は黒海に流れ込む。
一筋の河川だけでもこれだけが見えてくるとは、と、今度はドニプロ川に沿って旅してみたいような気持ちになる。
こんなに美しい大河だが、そこでは今、暗い出来事ばかりだ。

20時。列車がドニプロに近づくと、1kmほどの幅のあるドニプロ川を渡る。ちょうど私の好きな日没後の時間。川面に暗くなってくる紅い空の色が映っている。

鉄道から見えたドニプロ川の夕暮れ

ドニプロ駅を出たあと、オンラインで予約したはずのホテルが見つからない。電話をしてみると、英語が全く通じない。もう人気の少なくなった駅前の通りを歩く若い男性を捕まえ、無理やりホテルに電話してもらう。このホテルは、外国人には対応していない(?)らしい。

駅前で見つけた混雑するドミトリーに、翌朝7時前にチェックアウトという条件で泊めてもらうことになった。大型の民家をドミトリーにした、バスルームが1室だけの宿。ただ、受付けをする若い女性が英語を話すので、なんとかなった。iPhoneの充電に使おうとしたコンセントも電源が通っていない、ああ、どうしようなどと気にかけながら、シャワーを使わせてもらう。廊下にも何人もの老若男女が集っている。下のベッドの少女がなにか話しかけてくる。わけのわからないうち、短い眠りについていた。1泊300フリヴニャ、わずか7ユーロもしない宿。

あの記憶に焼き付くような美しい大河の夕暮れを見たあと、明日、何をドニプロで見るのだろう。

Photo: Miyuki Okuyama

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