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特集『オンラインの可能性』 ミヤ、無観客配信ライヴを語る

コロナ禍でさまざまな制限が続く中でも、
常に意欲的に自分のやるべきことを追求しているミヤ。
6月21日に行われた、MUCCの無観客配信ライヴ
「~Fight against COVID-19 #2 ~『惡-THE BROKEN RESUSCITATION』」は、制限がある今の状況だからこそ生まれた新たな表現だった。
あれだけ完成度の高いライヴの裏側にどんな考えがあったのか。
そしてこれからどんなライヴの形を追い求めていくのか。
ミヤに話を聞いた。

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Photo:田中聖太郎・渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)

■先日の無観客配信ライヴについては、どういうものをイメージして制作に取り組んだんですか。
配信ライヴといっても、ライヴハウスを借りてお客さんがいない状態でライヴをして配信するだけだと新しい感じがしないので、配信ライヴという条件を逆に利用したいと思ったんです。カメラワークを工夫するとか、普段見られないアングルを見せるとか。残響音も一切収録してなかったし、そのうえで音の面でも普段やらないようなアプローチをやってみました。今のこの環境だからできる見え方、楽しみ方がコンセプトにありました。

いろんな配信ライヴを見てるんですけど、ライヴの現場に近づけようとしてる感じがあるんですね。でも、そもそもライヴって、お客さんがいてお客さんの歓声があって成立するものじゃないですか。だからお客さんがいないと、それを再現することはできないし、だったら普段お客さんが見たり聴いたりしたことのない環境や音像にこだわったかなという感じはします。

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■ライヴをやる側としてはどうだったんですか。
お客さんが見えないので、レコーディングの延長という感じではありましたけど、レコーディングとイコールという感覚でもなかったです。でも、ライヴとも違う。テレビ番組を生中継してる感じですかね。

今は携帯があれば誰でもライヴを配信することはできるんだけれども、その瞬間その場所で鳴ってる音をきれいに届けるのはハードルが高くて。そこをMUCCの場合はクリアして、普段のライヴとは違うけれど、これはこれでありだよねっていうものにしたかったんです。ライヴDVDを見てるような感覚だけど、でも生でやってる、だからテレビに近いというか。

■演奏しているそのときに、リアルタイムで見られるという意味は大きいですよね。
リアルタイムで見られるということが、一番ライヴに近いことだと思います。その瞬間に出た音をその瞬間にお客さんが聴くから、映像の編集をしましょうみたいなこともできないんですよ。映像を整えて、音も編集するなら、ライヴDVDとかBlu-rayにすればいいけれど、お客さんがリアルタイムで同じ時間を共有するということが重要かもしれないです。

■ライヴ前の団長さんとのトークで、当日のリハーサルで全曲やったと話してましたよね。それぐらい入念なリハーサルがやっぱり必要だったんですか。
カメラマンは当日が初めてですからね。しかも仕事をするのが初めてのチームだったんです。チームの音楽的な引き出しに任せるしかなかったし、そこが信頼できると思ったチームだからやったんですけど。やりたいことが全部できたかと言ったら、65%ぐらいです。たとえば、ギターソロになったときにギターを映すのがちょっと遅いとか。ただそれは、編集するものだったらそうはならないわけで、それも臨場感という意味ではいいのかなという気もしてました。

もちろんもっと時間があればもっとできることはあったんですけど、このライヴはタイム感が重要だったんですね。もともと6月21日はぴあアリーナMMでライヴをやる予定だったし、お客さんもその日にライヴを見に行く予定を組んでいたはずだし。その日程に合わせてやることが最優先事項でした。

時間のない中でいろいろアイデアを詰め込めたと思います。立ち位置が変わるとか、セットが変わるとかは通常のライヴハウスだとなかなか難しいんですけど、曲の世界観に合わせて逹瑯が座って歌うとか、映像のバックで演奏してみるとか。世界観を作り込むという意味では面白かったかなと思います。

■サウンドはもちろん映像も美しかったですし、65%というのはちょっと辛口じゃないですか。
いや、それは普段のライヴもそんぐらいのパーセンテージだと思いますよ。だから、満足はしてます。あとは、やることの規模が大きかったので、予算面とかそういうところも含めて、賭けに出たところも若干あったので、それが成功したのはよかったですね。結果は残せたので、次につながる感じになれたとは思います。

すぐ隣にいるようなサウンドに聴こえたはず

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■5月の取材でも『惡』から全曲はやらないというお話でしたけど、配信ライヴという点はセットリストを考えるときに影響しましたか。
影響したところは大きいですね。今回のライヴは、ライヴの代わりという認識ではないんですよ、また別のこと。別のことをどういう感じでやるか、何を提示するかとなったときに、アルバム全曲やることは重要ではないなと思ったんですね。通常のライヴの現場で初めて演奏したい曲もあるから。その分、セットとか環境を利用した曲のセレクトになりましたし、アコースティックっぽいバラード曲が多かったりとか。

■配信ライヴは、聴かせる曲が向いてるというような面はあると思いますか。
一本のライヴのクオリティとして、今回はそのほうが合ってるなと思いました。たとえば、ずっと座って見てる人もいるわけじゃないですか。その中で気持ちよく見られるセットリストを意識して作った部分はありましたね。

■ピアノやバイオリンも合ってましたよね。
ピアノやバイオリンは前のツアーからやってたことなので新しいチャレンジではないんですけど、映像とかで見せ方を変えることでアプローチの違いを感じてもらえると思ったんです。メンバー以外の人間は同じフロアにいなかったんですけど、ちゃんと合奏はできたし。

全く違う場所にいたから、カメラのスイッチングで映像に映すこともできるし、テレビ番組みたいに映像をかぶせることもできたんです。ピアノとバイオリンと一緒に回ってたホールツアーではやらなかったことが画面上でできたかなと思います。

ただ演奏してる姿を生で見ることはできないので、二人が演奏している部屋にはモニターがあるからそれを見て曲が終わるところとかは演奏してもらうしかないんです。やったことのないことなんで、面白かったですよ。

■すごく緊張しそうですね。
緊張感はありました。ピアノのトオルさんも別の部屋で、そこでカメラマンと一対一なんです。自分がいる環境の中に誰もいないからライヴ感がなくてやりづらかったと思いますけど、音だけ聴こえて音だけを感じながら演奏するという、ある意味究極の演奏というか。

■確かに。お客さんの顔が見たいと皆さん口々に話してましたけど、観客がいないという点についてはいかがでしたか。
お客さんがいることで自分のパフォーマンスも変わってきますからね。それがライヴのよさだと思うし。でも、みんな画面の前で楽しんでくれてるだろうなっていうイメージでやってました。寂しさは若干ありましたけど、ストレスにはならなかったですね。

MCはお客さんの歓声がないんで、ちょっととまどったかな。サザンオールスターズの配信だと歓声を流してましたけど、あれは実際の歓声ではなくて録音したものを流してライヴ感を演出するというものでしたよね。それは偽物というかウソになるので、あえてやらなかったんです。その代わり応募してくれた人をZoomで画面上に出して、聴こえないけど映像は見られるというのが出来たのはよかったです。あれは、世界中を探したらいるのかもしれないですけど、日本では知る限りうちらが初めてだと思いますね。

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■初めての挑戦をいくつも盛り込みつつも、ライヴ自体はとてもスムーズでしたよね。見る側として何のストレスもなかったです。
ちゃんと音が届いてるかとか、画面上どういう風になってるかはリアルタイムではわからないので。配信が止まってないかとかは気になるところではあったんですけど、事故もなかったのでよかったですね。

最初に一番プレッシャーとしてあったのは、アルバム発売後の初ライヴであるということなんですよね。それは変わりないわけだから。そういうタイミングで、いつもライヴのほうがいいなって思われたくなかったからいろいろ頑張ったし。

『惡』を初めてライヴでやるわけですけど、さんざん音源を聴いてるお客さんからしたら、やっぱりライヴで爆音で聴くのが気持ちいいぜってなるはずの要素が、配信ライヴでは全くなくなるんで、カメラワークとか音の綺麗さとか、普段聴こえないような言葉まで聴こえやすいとか、そういうところに力を使ったんです。

ギタリストは曲によってギターを持ち変えるけど、ヴォーカリストはマイクを変えたりできないじゃないですか。でもあの環境だったら全然できるし。耳元で囁かれてるようなアプローチは音が遠くなってしまうけど、逆にヘッドフォンとかイヤフォンで聴いてくれていたら、本当に隣にいるようなサウンドに聴こえたと思います。そういうのをメリットとして考えて、逹瑯がマイクを変えてみるとかもしたんです。だから、普段聴こえない音が聴こえるという意見はありましたね

■きっと音にもこだわっているんだろうなと思ったので、イヤフォンで聴くべきか、パソコンのスピーカーではなく、もうちょっといいスピーカーから音を出すべきなのかとか、いろいろ考えちゃったんですけど。
配信だからお客さんが聴く環境を選べると思うんですよ。静かにまったりと聴きたい人は部屋で座ってイヤフォンでじっくり聴けばいいし、お客さんによってはカラオケのパーティルームを貸し切って、めちゃめちゃデカい音とデカいモニター画面で聴いてましたっていう人もいたし。家事をやりながらiPhoneで聴いてましたっていう人もいるんですよね。その人の生活スタイルに合わせて聴けるというのはメリットかなと思います。選べるということですよね。アーカイブがあるので今度は大きい音で聴いてみようとか、そういう選び方もできるし。

どういう環境で聴こうとあんまり音の印象が変わらないようにこっちは努力をしてるんですね。そこを怠ると、スマホで聴くと音がよくわかんないとかってなるんですよ。そこをなるべくギャップがないようにというところに一番力を使いました。そういうことをしていかないと、いいものにはならないかなっていう感じがするんですね。

今は簡単に届けられるし、デバイスも手法もいくらでもあるじゃないですか。iPhoneがあればインスタで簡単にライヴができるけど、その裏にはすごく音が悪いとかデメリットもあるわけで。そのデメリットをアーティスト側が考えてお客さんに届けていくかですよね。お客さんはライヴで配信してくれた、ライヴをしてくれたという事実があるだけで嬉しいんですよ、いくら音が悪くてもね。でもそこで音がよかったらもっとハッピーでしょって思う。

さらに、普段と違う楽しみ方できて、こういう楽しみ方もあるんだという新しい発見があったら、エンタメとしてなおさら楽しいかなと思うし。俺は音響関係のことが趣味としても好きなので、いいものにしていきたい意識が強いし、そこは楽しんでやれてますよね。

ライヴハウスでライヴをすることが日常であるように

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■残念ながら、まだ通常のライヴができるまでには時間がかかりそうですけど、また配信ライヴをするにしても、ただ単に配信するのではなく、そこにさらに新しい要素を加えていきたいですか。
生のライヴが早めにできることが一番ではありますけど、いつになるかわかんないんで、今できることを模索してやっていくほうが楽しいですよね。現場に来ることが一番ハッピーという人もいると思うんですよ。だから、今までどおりのことはできないけど、次に配信を何かやるとしたら、現場で見てるお客さんもいながら、配信で見てるお客さんもいてという、ハイブリッドなことはやってみたいと思ってます。いろいろ次のことは考え始めてます。逆に、俺んちから配信しますよみたいな、もうちょっとライトなプロジェクトも考えてるし。

■スタジオを作ったんですよね。
この前の配信ライヴのもっとライト版、縮小版をするためですね。音が出せて合奏ができて、演奏を配信できるスタジオを作ったんです。配信ライヴをするとなると、ライヴハウスを借りて、スタッフがこれだけいてとかじゃなくて、ミュージシャンがギター一本持ってきて、ジャーンって鳴らせばそれがそのままお客さんにつながっているような環境を整えました。スタッフもどこまで減らして、ライトな感じにできるかにこのスタジオでは挑戦したいですね。

そもそもライヴハウスでライヴをすることは、そんなにすごく構えてやることでもないし、日常の中のひとつじゃないですか。でも配信ライヴとなると準備が全然今までと違って、ハードルが上がるんです。そういう場所はもちろんライヴハウスとしてあるんですけど、ライヴハウスから配信をするとなったら、いろいろやらないといけないことも増えていく。そういう中でできることがないかなと考えて作ったスタジオです。

■コロナ禍でも、やっぱり何かしたい、何ができるかと前向きに考えてるところが、ミヤさんらしいですね。
そのスタジオでリハーサルをしてみて、同じ場所で一緒に音を出すことに飢えてたんだなと思いました。もちろん環境は違うし、距離も普段より近くはないんですけど、やっぱりその瞬間に音を出すことが楽しい。演奏を誰かと合わせるのが楽しい行為なんですよ。それはミュージシャンの顔に出るし、楽しんでるなってわかるし。それはお客さんに伝わるんですよ。

今、こういう状況でそういうものをお客さんに届けることができたらいいですよね。好きなアーティストの演奏を見たいという欲求は満たせるかなって。この前の配信ライヴは真面目にやりましたけど、トークライヴと生のライヴを両方配信できたら、アーティストのふざけてるところを見たいというファンの心理も、真面目に演奏してカッコいい部分も見たいというのも両方満たせると思うんですよね。トークは配信しやすいからやってる人も多いですけど、真面目な演奏、しかもバンドになると合奏するのは難しいから、両方できたらいいなと思ってます。

■そこのスタジオからの初めての配信ライヴが、12日ですね。『実験的マルチ音楽番組!「×××STATION(仮)」』という気になるタイトルがついていますが。
メンバーは同じ事務所の仲間なんで、MUCCのライヴを配信するというよりは、セッション的な感じでやろうと思ってます。事務所のYouTubeチャンネルとニコニコ生放送から配信するんで、ぜひ見てほしいです。


『実験的マルチ音楽番組!「☓☓☓ STATION」(仮)』
7/12(日)19:00~
★出演
ミヤ(MUCC)
団長(NoGoD)
Masa(NOCTURNAL BLOODLUST)
ゆうや(シド)
吉田トオル
and more...
★配信チャンネル
YouTube こちら
ニコニコ生放送 こちら

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