カディキョイ

早朝コーランの響きで目覚めたあと、船で旧市街へ出る。なんとローマ時代から続くという下町は、イスタンブールよりさらにトルコを濃くしたような街だった。たくさんの濃厚なトルコ顔の男たち。小川に流れる笹の葉のようにゆるやかに視線を逸らしあう日本から来て、道すがら違和感を覚えずにおれなかったのが、彼らの強くて真っ直ぐな眼差しだ。

視線・視線・視線!

通りすがりすれ違う間際まで強い視線を投げかけられることもしばしば。目が合ってもまったく逸らす意思がない。彼らの「何?」という好奇心は間髪入れずに視線につながるのだ。

慣れない土地、独り歩きの東洋女として次第に弱々しい気分に陥っていった。せっかく持ってきたカメラを向けることすらできずに。

しかしそういう気分が一転するときがくる。乗っていたトラムが止まり、乗客たちが何やら騒ぎ始めた。何か騒動が起こったらしく、前のトラムも止まり救急車と警察が来て人だかりができている。何が起こったのかとなりの大きな身体をしたおばさんに聞くと、片言の英語で、「Bomber box,BOMB!」と言い放って大きく両手を振りあげた。彼女の興奮した声の響きが、一瞬にして私の頭をBOMBしてしまったように感じた。

その時不謹慎にも、私の目は小さな枠からするりと抜けて世界に返ったように、いきいきと開かれていった。そのまま動かないトラムを降り、迷路のような街の内部へと颯爽と入っていった。風景は不思議と、はじめてわたしの目前に現れた如く輝いていた。



画像1