コムニ THE END
目の前に差し出された手を、その行為の意味以前にただひとつの不可思議なモノとして、しげしげと眺めていた。白っぽい、乾き気味のやや不健康な大きな厚い手。でも相の筋が深く、頼もしくも感じられ‘ ありふれた ’と表現したいくらい、どこか馴染みのある手だった。
わたしは気づくと座り込んでいた。 小雨が降っている。
目の前の手の先を目で追うと、フードに隠れて影が濃くなった顔がやや強張った表情でこちらを見ていた。彼自身がその行為に戸惑っているようだった。
自然に手を伸べ、その手を取る。
触れた瞬間、その手から感じる温かみは確実に‘ わたし側 ’に属しているように感じた。
立ち上がると右足に痛みが走った。ああ、悪い地を歩きすぎて傷めてしまったんだ。そんなことも気づかないくらいに、ひたすら進んで来たのか。
けれども、なにか・・・そう、ここが終着地点なのだ、と、深く、深く、どこからか湧いてくる安堵と・・・そして何かしらの予感を、ただ感じていた。
‘ ここ ? ’
そう、この手だ。 この手なんだ!
やわらかい雨がそっと、 わたしたちに落ちていた。
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そのとき、その瞬間を、テジロは柔らかい世界のひと触れとして捉えた。彼の知覚のなか、世界が反転してゆくスイッチが入ったことを見ていた。ひとつの文明が、それは、始まり―発展―終わり、という流れ以外に、こうやって切り替わることを、知った。
一瞬に。
けれども彼には説明できないだろう。誰にも。その文明に関わるすべての者は知りえないだろう。文明をモニターし続け、新しい世界の予兆を先取ろうと、意のままに創りかえようと、当初の目的もすり替わっていった者たちでさえ、気づかずに過ぎてゆくだろう。
だがテジロのような一部の者が兆しを得ていたように、すでに始まっていて、世界はすでに始まっていた。 。
それはどんな世界であろうか?随分時を経て、それは徐々に気づかれるのかもしれない。
なぜ以前は、個人と個人、世界と個人、星と虚空間、それぞれの意思がそれぞれであり、相手が見えなかったのだろう・・・?
・・・そんなふうに不思議に感じながら。
THE END