赤い星に立つ   アトラス

あまりにも空が晴れ渡っていたので、近くの山を歩きに行く。

道なき道をのぼり、ひとつの丘の上に立つ。そこから山々が遠くまで連なっている。赤裸々な大地。この干乾びた山も太古の昔は海の中であった証しに、そこらに落ちている石ころには無数の小さな貝殻が含まれていた。背の低い木々がゆっくりと、それでも変化しながら生きている。所々、大地と同系色の小さな集落があり、鶏の鳴き声や太鼓を叩く音、コーランの叫びが静かに響き渡っていた。

彼らの営みがどんなにシンプルであっても、人間とはなんと慌しく生きているものだ。この悠久の時を生きる足下の星に比べれば。

転がる大地。ただ淡々と日が昇って山々は青い影をつくり、いつしか影は赤く燃えて日が沈み、無言の宇宙が広がる。それが気の遠くなる程の時をかけて果てしなく繰り返される。

丘を進むと連なる山々の谷底に、大きな土色の川が見える。その西側には別の山並みが波打ち、それが平坦になるまでどこまでも広がった。

こんなに世界が広いなんて。

ただ呆然と立っていた。昔夢に描いた世界のよう。私はそこに立っているのに、まさに夢のよう、実感できない。

果てしない大地は私の手にほんの僅かも残ることなく、ただできることはその光を写しとるだけだった。

その偉大な世界は、世界と繋がることは、私の魂が欲してやまないものだと知る。そしてこの小さな殻にこもっているだけの存在である私には、何をどうすることもできないのだということも。せめて心に宿せたら。だけどまた、あの集落の人々の何十倍もの慌しい日々が始まるんだろうなあ・・・。


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