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コムニ  3

手と手を固く握った。

樹海とゴーストタウンの狭間に立つ高木から、極楽鳥たちがバサバサと飛びたつ。

これが、彼ら、両親と兄との最後だと、わたしには分かった。彼らは変わらない樹海のしげみを背負い、あたかもそれが不変であるように馴染んでいた。しかしそれはわたしにとっても不変であったはずだった。わたしのからだであり、わたしのすべてであった。けれどもそれが別れを告げている。この決別がわたしをどこへ、何へ、押しやろうとしているのか、このときのわたしにはさっぱり分からなかった。

この路がみえたのは、沼との語らいによるものだった。沼はグループの移住先と、そしてわたし自身には ‘ ここを出るように ’ 伝えたのだった。
わたしはそれを拒んだ。理性的に対処しようとした。おおきな動揺の波が襲い、木々の間をさ迷い。そして静けさがこころに戻ったとき、不思議なくらいそのことを受け入れ、両親にこの旅立ちのことを告げたのだった。

新しい沼は日々成長し、範囲を増していった。
‘ なにかが変わろうとしている・・・ ’ ただそれだけが分かる。それはどこから始まっているのか、確かめなければ・・・ そんなことが浮かぶのだった。

すでに懐かしさを覚える樹海から踏み出すと、そこは生きるものの気配の消し去られた、朽ちかけのコンクリが延々林立する光景だった。その先の先を、わたしはただ見据えた。

はぎ取られるような歩み。

境目の淡いわたしの身体と意識は、急激に自意識過多な身体感覚へと移り、その過剰とうらはらに孤立した脆さのなかに陥った。
そこの風は他のいのちの息吹や想いを伝えなかった。からだのみ、生きている。それはなんと小さな感覚だろう。ただ前を向き、前へ足を出し続けた。朽ち落ちたコンクリをよけつつ、延々と無意味な道が続くようだった。
その歩みの意味を、この茫漠が飲み込まないようにわたしは遠く先に想いを馳せた。そこは場所というより、ひとの姿のようなものがぼんやりあった。ひかりを背に誰かの影がまっすぐ、こちらを見つめ、待っていたのだった。