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a moment a dimention

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夢にあらわれた世界をshort storyにしました。
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#小説

コムニ  3

手と手を固く握った。 樹海とゴーストタウンの狭間に立つ高木から、極楽鳥たちがバサバサと飛びたつ。 これが、彼ら、両親と兄との最後だと、わたしには分かった。彼らは変わらない樹海のしげみを背負い、あたかもそれが不変であるように馴染んでいた。しかしそれはわたしにとっても不変であったはずだった。わたしのからだであり、わたしのすべてであった。けれどもそれが別れを告げている。この決別がわたしをどこへ、何へ、押しやろうとしているのか、このときのわたしにはさっぱり分からなかった。 この

コムニ   8

彼女がその都市の内部へ組み込まれていったとき、初め、人間の影の異質さや集合建造物の奇妙さにみとれ、己との違いとして境界が明瞭に認識されていたが、日々無目的に歩むにつれ、次第にその境目は薄れ、影に馴染み、異質で奇妙な光景に同化していった。明白な精神は、この旅を推し進めていたちからは薄れ、周りの影と同じくどんよりと、盲目に変わり果てていった。 旅のあいだにすり減り、役に立たなくなってしまった靴や、防御反応のように全身を隠したストール姿が、あたかもこの世界でよく見かける(そういう

コムニ    THE END

目の前に差し出された手を、その行為の意味以前にただひとつの不可思議なモノとして、しげしげと眺めていた。白っぽい、乾き気味のやや不健康な大きな厚い手。でも相の筋が深く、頼もしくも感じられ‘ ありふれた ’と表現したいくらい、どこか馴染みのある手だった。 わたしは気づくと座り込んでいた。  小雨が降っている。 目の前の手の先を目で追うと、フードに隠れて影が濃くなった顔がやや強張った表情でこちらを見ていた。彼自身がその行為に戸惑っているようだった。 自然に手を伸べ、その手を取

リトルラゥム 1

1 ヤナの父が地球政府機関アジア支部のある北京に派遣されていたとき、合格通知が届いた。 未だ十代に入ったばかりの彼女に大学入学は早いようだったが、ますます多忙になる彼にとって手の焼ける娘がやっかいだったのであろう、幼少からの彼女の際立って高い知能への信頼もあり、彼の斡旋は通ったのだった。ヤナにしてもそろそろここでの生活に飽き飽きしていたところだったため、互いの思惑は一致し、月への旅立ちが決まった。 たとえ大都市といわれるところであれ、地上の小さくまとまろうとする性質がヤ

リトルラゥム 2

3 ある日、サム、操縦デッキ管理担当ペアの生徒であり別のクラスではマーシャルアートの教官でもある彼と、いつものようにシステムチェックをしていると、窓の外、漆黒の宇宙空間に小型船が異様な角度で通り過るのが一瞬見えた。様子がおかしい。ふたりが窓のそばに駆け寄ると、船は灰色の煙の筋を引いていた。学校校舎から離れた高原に落ちようとしている。 「不時着よ!」 ヤナは叫んで小柄な彼女には大きすぎる全身スーツをざっとまとうとすぐさまモーターバイクに飛び乗り、サムも慌てて続いた。校舎を

ひとのゆめみのちからともりしとき

いつだったかはるかむかしのこと。ひとの、星々の民とこのそらをともにしていたときのこと。 世の混じり乱れたときも終わり、しずかなしずかな時代の明けようとしていた。 夜明け前の空の青は濃く、やわらかく、星々はありありとその存在を無言で輝かせていた。 森で築いてきたこれまでのあり方そのすべてを失い、部族の民もその大方を亡くし、新しい時代を前にただぽかんとひらけた自由だけがあった。 のこった女たちはかましく、たがいにかたときも離れないほどだったため、気の細く無口な青年は居場所