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オイディプス王は妻の形見で目を潰す

ソポクレス作『オイディプス王』はギリシア悲劇の中でも特に有名で、
現在も度々上演されている人気の作品です。

“父を殺し母と結婚する“という呪われた運命を背負い生まれてきたオイディプス。

知らぬ間にその運命がすでに達成されていたことが明るみになった時、
彼の実母であり妻であるイオカステは首を吊って命を断ちます。

そしてオイディプスは、すでに息のないイオカステを床に降ろし、
彼女の衣服が止められていたピンを使って、自らの目を潰すのです。
(この部分は舞台上では演じられず使者のセリフによって語られます。)

その後舞台上に姿を表すオイディプス王は
劇的効果としても大きな見せ場であり、
たとえ彼の運命を始めから分かっていたとしても、
あまりにつらすぎる展開に観客は息をのむことでしょう。

ギリシア神話にはなんの落ち度もない人物が突然不幸を被るような理不尽な出来事が多いのですが、
特にオイディプスのように生まれる前から不幸を背負わされる人物たちがいるのもまた特徴的です。

始めからわかっていても、逃れられないのですね。。。

さて、このオイディプス王の“目を潰す“という行為に使われたピンとは、一体どのようなものでしょうか?

ギリシア悲劇が最盛期を迎えた紀元前5世紀には、すでにアジアの方から影響を受けたイオニア式キトンという種類の衣服が着用されていたそうですが、劇に描かれる神話時代は当時から見ても昔話であり、文化もまた異なります。

古代ギリシャの初期には一枚布をピンと帯で止めるペプロスという衣服が用いられ、このピンは当初はシンプルな一本針であったそうですが、イオカステの衣服を止めていたのもこの一本針のタイプだったのでしょうか?
(時代が下るにつれてブローチのような形のピンが使われるようになり、次第にそのブローチもまた使用されなくなっていくようです。

タイトルでは形見と表現したこのピンですが、
(実際には亡くなったばかりなので、もっと良い表現がありそうですが…)

私は最近になってこのピンがオイディプス王の目潰しに使われたことに気づき、

(それまでは作品自体は読んではいたのですが、おそらくあまり気に留めていなかったせいで勝手にナイフを用いたのだと思い込んでいました。)

シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』のクライマックス、
ジュリエットが仮死状態から解かれ目覚めた時、隣にはすでに毒薬を飲んだロミオが横たわっており、ロミオの持っていた短剣でジュリエットもまた自ら共に死を歩むシーンが思い起こされ、

オイディプスは己自身の壮大な運命から目を閉ざすのですから、
エネルギーの方向性は若さゆえの恋愛とは大きく異なりますが、
いずれにしても、

この辛い運命に翻弄された彼らのことをふと思い出しては
これには何か意味があるのだろうかと
思い耽る日々を過ごしています。。。

お読みいただきありがとうございました。
ではまた。


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