つぶやき(兄)

 「文字を持たなかった昭和」になかなか戻れないが、このタイミングで書いておきたいことをひとつ。

 鹿児島で母(ミヨ子)を引き取って同居している兄が所用で上京した。わたしにとってたった一人のきょうだいである兄は、なかなか面倒な人で物言いもきついが、根はやさしい。

 高3の頃。進学を希望していたわたしは、両親とくに父親の強力な反対に遭い、鬱々とした日々を送っていた。父はいろな理由を並べて首を肯んじようとしない。家の中の雰囲気も最悪だった。

 あるとき、すでに県内で就職していた兄が休みに帰ってきて
「二三四はオレと違って勉強が好きなんだから、大学に行かせてやれば」
と言ってくれたことで、両親が折れた。

 その後の長い年月、それぞれにいろんなことがあり、頑固だった父は他界したが、残された者はとりあえず穏やかに暮らせている。

 わたしのいまがあるのは兄の一言があったからこそだ。兄への感謝を、母の半世紀の一部に残しておきたい。

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