鹿児島弁の「ヨモギ」

 NHKの朝ドラ『ちむどんどん』を観ていて、はたと思い当たった。

 『ちむどんどん』のドラマとしてのストーリーや演出に対する違和感は、ここでも何回か書いたが、今回はその趣旨ではない。

 ドラマのヒロイン暢子(のぶこ)が故郷の山原(やんばる)にUターンし、地元で穫れる食材で伝統的な料理やオリジナルの料理を作るのだが、その中に、ヨモギ入りで生地が緑色、抹茶が入ったような色のサーターアンダギーがあった(2022年9月26日放映回)。それを紹介するとき、
「フーチバーを入れました」
と言っていたと思う。

 フーチバー。
 視聴時には意識していなかったのだが、後で考えて「フーチ(フキ)葉ー」、つまり「ふきの葉」ではないかと思ったのだ。

 と言うのも、鹿児島弁、というか母ミヨ子が生まれ育ち、結婚してわたしたちを育てながら年齢を重ねていった鹿児島県西部の農村では、ヨモギのことを「ふっ(ふき)」と呼んでいたからだ(鹿児島弁では往々にして単語を短く発音し、語尾が促音化する)。例えば
・ヨモギ餅:ふっのもっ(餅)
・ヨモギを摘みに行こうか:ふっつんけ いこかい(ふき摘みへ 行こうかい)。
という具合だ。

 山菜として食べるフキ、ツワブキは別にあり、それぞれ「ふっ」(同じですね)「つわ」と呼んでいた。ネットで調べた限り「ヨモギ」の古語が「フキ」であるという記述は見当たらなかったが、これらはどれも苦味やえぐみのある野生の植物で、同じように「ふき」であることについては研究の余地がありそうだ。

 いきなり古語を持ち出したのは、沖縄のことばと鹿児島のことばの共通性について考えたからである。

 いわゆる「方言周圏論」では、京(都)の言葉は少しずつ地方へ広がっていき、結果的に同心円を描くように地方に分布する、としている。つまり本土の端っこの鹿児島には長い時間かけてたどり着いた古い都のことばが、消えずに残っている可能性があるし、実際鹿児島弁にはそれが散見される。そのさらに南側の沖縄にも京のことばが伝わり、海によって隔たっているという地理的特性からそれらが今も残り使われている、と考えるのは自然だと思う。

 琉球は独立した「国家」だったのに? という見方もあるだろうが、沖縄のことばは語系でいえば日本語と同じ系列であり、琉球と日本(本土)はさまざまな形で往来があったことを考えれば、ことばの面で影響を受け、与えあったと考えるのもまた自然だろう。

 じつは『ちむどんどん』の中で出てくる沖縄のことばに、鹿児島弁との相似性を見出したことは何回かある。沖縄のことばと鹿児島弁は一見(一聴?)それほど似ていないが、交易などを通じて部分的に影響し合った可能性も排除できない。

 同じ(ような)ことばが、時空を超てまったく異なる場所に存在するようになるまでの道のりは、とても興味深い。


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