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一番渡したいプレゼントは#クリスマスアドベントカレンダー

12月に入ったとたん、街はすっかりクリスマス一色。こんな田舎の駅前にも大きなツリーが飾られて、商店街の店先にはサンタクロースと雪だるまがひしめき合っている。何人かのサンタクロースは、マスクを着けられて窮屈そうだ。

「今年のクリスマスはおとなしく過ごすしかないね」

箱ティッシュを左手に持ち、ぶらぶらさせながら呟く。
と、右手にふわりとしたぬくもりが加わった。

「ま、僕は優衣と家でのんびりしてるのも好きだけどね」

目尻をきゅっと下げて悠太が言った。彼の右手には卵や牛乳の入ったエコバッグが揺れている。
いつものスーパーでいつもの買い物。歩いて10分のプチデートは、同棲を始めて3年が経った私たちの日常だ。

「家でのんびりって言ってもさあ、普段の休みと一緒じゃん」
「だってそもそも優衣、仕事でしょ?」
「そうなんだけどさあ」

シフト制の仕事をしている悠太は、24日も25日も運良く休みだったらしい。一方の私はごくごく普通のOLで、年末の忙しい時期に休みがもらえるはずもなかった。
旅行に行ったり、夜景を観に行ったり、毎年二人で予定を立てていたクリスマスだが、今年はそうもいかない。ちょっとだけしょげている私を見て、悠太はくすくすと笑いながら右手を包む手に力を込めた。

***

12月24日。前日の仕事を消化するべく、私はいつもより早めに家を出た。悠太はまだ夢の中だ。
すれ違う女の子が綺麗に着飾っている。電車に乗れば、少し緊張した面持ちの男性がブランドのショッパーを手にスマホを気にしている。

きっとデートなんだろうなあ。私は仕事よ、仕事。
せめてこのウイルスさえなければディナーくらい行けたかもしれないのに。家でDVD観て過ごすクリスマスって何よ。仮にも3年同棲してるのに。付き合い始めてから数えたら5年経つのに。

「あ、そういえば悠太にホーム・アローンも借りておいてって言っとこう」

昼休みに思い立ってスマホを開くと、悠太からメッセージが届いていた。

この間予約したケーキは取りに行ったよ。めちゃ美味しそう!
でさ、花とか飾ったら雰囲気出るかなと思って隣の花屋でお願いしたんだけど、混んでるみたいで出来上がるの夕方なんだって。
仕事終わったら優衣が受け取って帰ってきてくれると助かる!!

隣の花屋さんはたまに悠太と二人で行くお店。ケーキ屋さんの隣にある。母の日とか父の日は絶対にそこでアレンジメントを頼むし、お互いの誕生日に好きな花を選んで買ったこともある。店主のおばさんと顔なじみになったら、毎回おすすめのお花をおまけしてくれるようになった。

「ありがとう了解、あと、ホーム・アローンも借りておいて、……っと」

ケーキを悠太が取りに行ってくれているならまずは安心。オードブルは昨日のうちにデパ地下で調達済みだし。
有休は取れなかったけれど、なんとしてでも残業は回避して帰らなくちゃいけない。スマホをカバンにしまい、午後の仕事に取り掛かるべく休憩室を出た。

***

「お疲れさまでしたー」

定時ぴったりとはいかないものの、比較的早く会社を出て悠太の言っていた花屋に向かう。
ケーキ屋さんを過ぎてすぐ隣。店先には深い赤色のポインセチアがずらりと並んでいる。チラチラと光るイルミネーションと相まって、これぞクリスマスといった感じだ。

「こんにちは」
「あらお姉ちゃん、今日彼氏くんが花を頼んでいったわよ。今持ってくるからね」
ひょこっと顔を覗かせただけで気づいてくれたおばさんは、いそいそとガラスケースの戸を開ける。
「お代、もうもらってるからね。気を付けて帰んなさいよ」
おばさんはそう言うと、色とりどりに作られたバスケットを渡し、パチッとウインクをしてみせた。

おばさん、こんな感じだったっけ?クリスマスだから?不思議に思いながら店を出て、アレンジメントを見るとそこには、

メリークリスマス!
プレゼント一個目はアレンジメントでした!

悠太の字で書かれた可愛らしいメッセージカード。思わず顔がほころぶ。これをやりたくて私に花屋さんに寄って来いって言ったのね。
家までの足取りが軽くなる。どこに飾ろうかな。二人で選んだサイドボードの上かな。

しかし、玄関前まで帰ってくると、部屋の電気が消えている。ドアノブには

ごめん、ちょっと打ち合わせに呼ばれちゃったから出かけるね。
あ、ホーム・アローンは借りたよ!

また悠太の字で、今度は紙袋にメッセージが書かれて引っ掛けられている。飛ばされないようになのか、今朝の新聞が入れられていた。

「打ち合わせって……。せっかく早く帰って来れたのに」

さっきまでのウキウキから一気に気持ちが下がる。仕方なく鍵を開け、玄関、廊下、ダイニング、と、歩いた跡をなぞるように電気を点けて部屋に入ると、テーブルにまたもやカードが。

ケーキめっちゃ美味しそうだからさ、食べる前に見ておいてよ。
すぐ!今!

「ケーキ見てって何?」

こぼれた独り言は静寂に消えていったが、とりあえず冷蔵庫の扉を開ける。
確かにお気に入りのケーキ屋さんの箱が、一番上に鎮座している。見ておいてってことは取り出さなくちゃいけないのか。

そっと箱を引っ張り出すと、上面だけが透明になった箱の中に、たっぷりのイチゴとつぶらな瞳のサンタクロースがあしらわれたケーキが見える。
「一緒に予約したから知ってるんだけどね」
そのまま箱を戻そうとして、箱に小さく文字が書かれていることに気づいた。お店のロゴに紛れるようにして、小さく小さく、

次は、クローゼットです!

これ、順番通りに見てもらえるかドキドキしながら書いたんだろうなあ。悠太の顔を思い浮かべながら寝室に向かい、クローゼットを開ける。
と、そこには

じゃじゃーん!プレゼント二個目は欲しがってたバッグでーす!
開けてみてね。

でかでかとしたカードが貼り付けられたコルクボードの横に、綺麗にラッピングされたバッグ。
「覚えててくれたんだ……」
半年前にデパートで見て、ボーナスが入ったら買うと言いつつ結局買わなかったそれが、二個目のプレゼントらしい。一度しか見ていないのに覚えていてくれたことが嬉しくて、視界がぼやける。悠太が帰ってきたら飛びついてお礼を言おう。
そして、バッグが包まれていたリボンにもカードが通されていることに気づいた。

そろそろ帰るけど、駅まで迎えに来てほしいな。
部屋の電気はそのままでいいからさ、戸締りだけしっかりよろしくね。

そろそろ帰るって、スマホには何もメッセージは届いていないけど……。不思議な一文。もしかして打ち合わせじゃない?

カードに書かれた通り、電気はそのままにしてスマホだけポケットに入れ、玄関の鍵をかけて駅に向かう。

寒さで足早になりながら、花屋さんを過ぎ、ケーキ屋さんを過ぎ、大きなツリーが見えてきた。田舎のわりに立派なクリスマスツリー。

その下、いかにも人待ち風な悠太が目に入る。
近づくと私に気づき、軽く手を挙げた。

「おかえり、優衣」
「ねえ悠太、なんか宝探しみたいだったよ」
「でしょ、考えたんだ。てなわけで打ち合わせも宝探しのためのウソでした」

少し照れくさそうにする悠太。そして、

「三つ目のプレゼント、ここで渡してもいい?」

そう言って悠太が取り出したのは

「ゆび…わ…?」

「僕と、結婚してください」

真剣なまなざしの悠太。
また、視界がぼやける。

「……はい」

涙で揺れた声をちゃんと聴きとってくれた悠太は、私の右手を包み目尻をきゅっと下げて微笑んだ。



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七海さんの企画に参加させていただきました!
昨日までの素敵な方々と並ぶのが恐れ多いのですが、えいっと公開します。

ちなみにホーム・アローンは観たことないです。

一口にクリスマスと言っても本当に色々な物語があって、明日からの毎日もとっても楽しみ(*´°`*)

みなさんにハッピーなクリスマスがやってきますように!!





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