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プライム購入が脱炭素化を促す?(金融政策の話です)

オービック(4684)と、オービックビジネスコンサルタント(OBC、4733)。同じようで同じではない両企業は今月、一見すると正反対の資本政策を実施し、株価が対照的な反応を示しました。オービックが自社株買いを公表して株価が反発したのに対し、OBCのほうは、社長などの大株主が株式を売り出すと公表し、株価が下落したのです。

OBCの株式売り出しの背景には、2022年4月に予定されている東証の新市場区分「プライム市場」への移行があります。

東証「プライム市場」のコンセプトは以下の通りです。

多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場

自社株買いという資本政策は、株主還元策の1つです。一方、より高い企業価値の向上を求められるプライム市場への移行を目指すという経営判断も、株主から前向きに評価されてもおかしくありません。

プライム市場への移行が叶わなかった企業には、多くの投資家が保有する株式指数連動型のインデックスファンドから除外されたり、年金基金などの機関投資家の投資対象から外れるかもしれない、といったリスクがつきまといます。

より長い目でみれば、プライム市場への移行という企業判断は、将来の株式の需給悪化を回避したと解釈できます。

もう1つ、株式の需給面で見逃せない要素は、日本銀行によるETF買入れです。

日銀は金融政策の一環として、東証株価指数に連動するETFを大量に購入してきました。現在は積極的な買入れを控えている模様ですが、もし景気や物価の下振れリスクが増大し、株式市場に深刻な下落圧力が生じた際には、日銀が再び大量のETF買入れに踏み切るとみられます。

その場合、東証プライム市場に移行した企業とそうでない企業で、株価の明暗が分かれる可能性は否定できません。

企業が東証プライム市場に移行することは、日銀のETF買入れの存在ゆえに、株価の潜在的な下落リスクを軽減することに繋がるわけです。

金融政策の一環である日銀のETF買入れはこれまで、「コーポレートガバナンスを後退させる」と批判されてきました。しかし、東証の新市場区分という外部要因をきっかけに、日銀のETF買入れが企業のコーポレートガバナンスを促すかもしれないという、なんとも面白い状況になってきました。

そんな中、日銀は最近、企業の脱炭素化を促す新資金供給制度などを公表しました。おそらくECBのラガルド総裁に足並みを揃えたのでしょう。

経緯はどうであれ、日銀には世界に類をみない「ETF買入れ」という政策ツールがあるのですから、日銀は日本企業の大株主として、企業経営者に脱炭素化への経営判断を促せばよいのではないでしょうか。


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