金融業界ではいま「多様な働き方」は求められているのでしょうか?

『半沢直樹』が勤める職場のモデルとなった(と思われる)銀行出身のエコノミスト仲間に、あれが銀行の実態なのかと尋ねたことがあります。

「だいたい合ってる。部下が上司に歯向かうことは『絶対にない』という事以外は」との回答でした。

その『半沢直樹』の続編が、7年振りに放映されます。今回の舞台は、半沢が"左遷"された銀行系列の証券会社との事。銀行系証券会社で働く私からすると、何だか感じの悪い設定です。

さて本題です。いわゆるコロナ不況によって、日本の雇用情勢は急激に悪化しました。1年くらい前まで「人手不足」が叫ばれていたのがウソのようです。日本銀行の調査(「短観」2020年6月)によると、雇用が「過剰」と回答した企業の割合は16%となり、1年前の調査(4%)の4倍になりました。一方、雇用が「不足」していると回答した企業の割合は、1年前の36%から22%へと低下しています。

第2次安倍政権が発足した2012年12月を振り返ると、当時は、雇用が「過剰」な企業と「不足」な企業の割合がともに11%で均衡していました。しかし、その後は一貫して「不足」が「過剰」を上回っています。「人手不足」を追い風に、安倍政権は賃上げや働き方改革などを断行してきたわけです。景気が悪くて人手が余っている時に、そんな改革は実行できません。

金融緩和と財政出動で「人手不足」状態を作り出したうえで、働き方改革による生産性向上を実現し、賃上げでデフレ脱却を図る。順調に見えたアベノミクスのシナリオは、(消費増税の影響もありますが)コロナ不況のせいで今や風前の灯です。

そんなわけで現在の日本は、賃上げや働き方改革を実行できる環境では到底なくなりました。しかし政策というものは、いったん動き出すと簡単には止まらないようです。政府は、大企業が社員の兼業・副業を認めやすくするためのルールを整備するそうです。

他の業界と同様に、金融業界も深刻な業績悪化に苦しんでいます。社員はボーナスを減らされた上、いつリストラされるのかとドキドキしています。そんな中で、「兼業、副業をやりたいです!」と手を挙げる職員が出てくるのでしょうか。もし銀行員なら、上司から「じゃあ出向しろ」と言われるでしょう。もし私が銀行の管理職ならそう言います。『半沢直樹』によると、出向は銀行員にとって左遷を意味するそうですよ。本当かどうかは別として。

兼業・副業ルールの整備は、景気の良い時期に先送りしましょう。今だと、リストラや左遷の口実を作るだけです。政府は、失業者・休業者に仕事を作ったり、企業が倒産しないよう資金繰りを支援するなど、より緊急の課題を優先するべきです。

それでも「不況下で多様な働き方を促進したい!」と政府がいうのであれば、個人的にお願いがあります。講演料・原稿料を返して下さい。

一般に、社員が雑誌等に投稿したりセミナーで登壇したりする場合、「兼業禁止」の社内規定に抵触するとして、会社が原稿料や講演料の一部ないし全部を没収するケースが少なからず見受けられます。ノーベル賞の本庶教授とは、随分スケールの異なる要求ですけど。

半沢直樹のように「倍返し」なんて偉そうなことは言いません。せめて半分くらいは返してほしいなあ。


お読みいただき有難うございました。 小難しい経済ニュースをより身近に感じて頂けるよう、これからも投稿してまいります。