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irony

〝友哉がさ、深雪に手紙書いたんだって。
まぁ、内容は知らないけど。
あれから色々あったみたいで病んでるらしいのよね。無理にとは言わないんだけどさ、
もし良かったら読んでやってくれない?
いや、読まなくてもいい。受け取ってくれるだけでも。どう?〟


昔の仕事仲間、彩香と久々にランチしてたら、
パスタの横にスッと手紙を差し出されて。

 〝まぁ、別にいいけど…〟

って、あまり気が進まないけど手紙を受け取ったの。

 

友哉も昔の仕事仲間だった。私は会社に入ってすぐ友哉を好きになったんだけど、友哉には学生時代からの付き合ってる人がいたんだ。黙ってたつもりなんだけど私は顔に出やすいタイプだから、すぐ周りにバレて友哉の耳にも入ってしまったのよね。

 

モヤモヤしながら家に帰って夕食の準備を始めたんだけど、ずっと手紙が頭から離れなくて。
このまま夕食の準備を続けても気が散って包丁で指でも切りそうでしょ。
仕方なくバッグの中から手紙を出してソファに座って、封を開けたわ。
便箋5、6枚くらいだったかな。

 

〝久しぶり。手紙なんてビックリするよね。どうしても深雪に伝えたいことがあって。
元気にしてる?俺は、元気じゃないよ。深雪が会社辞めてから、事業立ち上げたんだけどさ。なかなか難しくて失敗して。仲間もみんな離れていったよ。しかし、悪いことって続くよな。深雪が辞めた後、学生の頃から付き合ってた彼女とも別れて。その後しばらくして、そう、ちょうど事業立ち上げの頃から付き合い始めた彼女とそろそろ結婚を考えてたんだけどさ。彼女が妊娠して。俺の子供じゃないっていうんだ。全然気づかなかったよ。浮気されてるなんてさ。
そのままその男と結婚するって出ていったんだ。
もう何もかも嫌になって死にたい気分でさ。でも
ふと深雪のこと思い出して。ずっと俺のこと好きでいてくれたのにな。今さらって思うだろうけど、
もし良かったらまた深雪に会いたい。〟

 

長ったらしい手紙を短くまとめるとこんな内容。
冷ややかに手紙を見つめたわ。

今となってはどこが好きだったのか不思議よ。
なんでって?友哉は自慢話が多いタイプで情報通ではあるけど、少しでも相手がそれを知らないとバカにしてくる。意味不明な説教なんかも。
私も何度被害にあったことか。おかげで何も知らない頭弱い子扱いされるようになったわ。
私の事なんてほとんどよく知らないくせに。
それに友哉はよく人を利用するし、理不尽な頼み事なんかは当たり前。
人をなんだと思っているのか、本気で理解できない。別にする気もないけど。

 
そう、こんなこともあったな。会社の皆と飲みに行った時。まだ友哉が学生の頃からの彼女と付き合ってた時よ。
友哉とは少し離れた席に私は座って、周りの同僚達と話をしていたんだけど。
ガヤガヤした中から甲高い声で〝え?じゃ深雪さんは?!〟って私の名前が聞こえたの。
声の方向は友哉と、両隣に座った女性社員。

 〝深雪と浮気して、彼女の浮気をなかったことにしてやったんだ!〟
友哉の声がした。

 
もう、頭が真っ白。

ほんの少し前、彼女の浮気が原因でもう別れるかもしれないって友哉に打ち明けられて
そのまま関係を持ってしまって。
付き合っている彼女の浮気を許すために、私の好意を利用したのよ。

 〝サイテー〟って甲高い声が耳の奥でかすかに聞こえたわ。

どうやら私には聞こえていないと思っているみたい。もうその後の事は記憶に無い。


 
これがきっかけで会社に居づらくなって、ストレスも重なって辞める事にしたの。

 友哉は私が飲み会での会話を聞いてしまっていることは、未だに知らないのよ。
ショックが大きくて彩香にさえこの事は話してないから。

 

 
で、友哉からのあの手紙よ。

 
今さら会って何になるの?
まだ私が自分の事を好きでいてくれてると、
本気で思ってるの?
会ってくれると思ってるの?
本当に、人を何だと思ってるの?

 

 あの時の怒りや悲しみ苦しみ全て、手紙にしてぶつけてやろうと思ってペンを握ったの。

けど思い止まった。
返事をしてやる価値ある?
あいつにあげる言葉なんてひとつもないよね。
やり返す価値あるかな?
そんなことする程私は弱くない。
怒りをぶつける価値なんてあるの?
そんな価値も愛情もここにはない。
勝手にしたらいい。
あいつの事なんて分かりたくもない。
 
友哉の手紙を手に取ってグシャッと丸めてゴミ箱に投げ捨てたわ。
あいつに言いたい事はこれだけよ。

〝くたばれ〟

 

 

 


優しいパンクお姉さん
〝irony〟より

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2021/6/27 やさぐれパンクスvol.8 
ライブの様子はこちらからhttps://twitcasting.tv/yasapank/movie/689612449

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